過去ログ - 魔法使い「勇者がどうして『雷』を使えるか、知ってる?」
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89: ◆1UOAiS.xYWtC[saga]
2013/05/26(日) 02:34:37.01 ID:UMPAG6Zoo
――――――それから一ヶ月が経つ頃、王国と、隣国の間で会談の席が持たれた。
場所は、どちらでもない中立第三国。
王女の……娘の根強い説得を受け、国王自ら赴いた。

城下の広場で行われたあの演説は、衛兵や国民の間を瞬く間に駆け抜けた。
衛兵から衛兵隊長へ。城下の民から、地方の農村へ。
やがてその内容は文書となって上流階級へと伝わり、それを読んでしまった若い嫡子達の心を、打った。
下から、上へ。揺らぎが生じつつある。
それらの声はやがて、看過できないほどとなり、一応の格好つけとして、この席を持つ事になった。

勇者の死を告げられると、隣国の王と、王子は――――哀しんだという。
「勇者は魔王と相討ちになり、世界を救った」と告げると、不倶戴天の敵であった隣国は、
その偉業を称えるとともに、哀悼の意を捧げるために、国を挙げて喪に服した。
彼らは、喜ばなかった。
世界を救った、敵国の男の死を嘆いた。

魔王討伐から、一年が経つ頃。
隣国との間に、停戦協定が結ばれた。
その影には、王女の力があったのは疑いない。

ふたつの握り拳は、握り合う手のひらになった。
力を抜いて開かれた手は、『太陽』の形を、きっとしていた。

勇者が去った世界は、皮肉な事に……それ故に、回り始めた。
嵐の去った夜明け、風雨を凌いでいた動物たちが、夜露に濡れた草を踏みしめて巣穴から這い出すように。

世界の全てが、同じ色の旗を分け合う事は、ない。
だが、敵対の理由さえ見失った二国が歩み寄る事は、できた。

それでも――――いつかは。
再び、世界は……炎に包まれる日が、来るのだろう。
何十年後か何百年後か、はたまた――願わくば、数千年後に。


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