過去ログ - 鷺沢文香エッセイ集『本とアイドルと私』
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207:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:47:33.84 ID:w4dUq9e30
 寝起きだからであろうか、自身の身に起こった異変に全く気付かぬ少女は、体を何一つ動かすことなく、視線のみを頭上に置かれた目覚まし時計へと合わせた。

 読者諸君は既に御存知の通りだが、本来そこにあるべきものは、見るも無残な姿形で絨毯の上に転がったままである。

 当然、少女の目先にあるのは、ぽっかりと空いた空間と、そこを取り囲むように配置された縫いぐるみのみであった。だが、さほど当惑した様子ではない。
以下略



208:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:49:54.41 ID:w4dUq9e30

 そう思いながら彼女は上半身を捻り、ベッドの縁から顔を覗かせようとするが、アラララ、どうして上手くいかない。それならば、体全体を駆使すれば良いことだと、今度は反動を付け、床に向かって大きく寝返りを打とうと試みた。


 ...またしても動かすことは叶わなかった。ここいらでようやく、少女は我が身に起こった異変に気付き、訝しみ始めた。よくよく観察すると、体のどこもかしこも...小指の一本でさえ、曲げることが出来ない。金縛りに合うとこのような症状があるが、それとはまた違った、何とも奇妙な感覚...。
以下略



209:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:52:40.33 ID:w4dUq9e30

 この違和感は、未だ湖底で燻る彼女の意識を急上昇させるに充分過ぎる刺激となった。一気に体中の神経が鋭敏さを増す。

 だがそれは同時に、少女に余りに残酷な現実を突き付けてる事となった。体中の異変が次々と露わになっていく...。

以下略



210:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:55:29.95 ID:w4dUq9e30

 少女特有の、白くきめ細やかな柔肌は、固く歪な甲羅の様なものへと姿を変え、肩まで伸ばしていた髪はすっかり消え去っていた。頭上には、全身の神経の全てをそこに集中させたかの如く敏感な、二本一対の角が垂れ下がっている。

 しかし、何より最も不自然であったのは、夥しい数に膨れ上がった関節と、骨格であった。背骨の一つ一つはまるで大きく、はっきりとその形を認識することができ、尚且つそれが足の先まで続いている。

以下略



211:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:56:06.70 ID:w4dUq9e30

 少女特有の、白くきめ細やかな柔肌は、固く歪な甲羅の様なものへと姿を変え、肩まで伸ばしていた髪はすっかり消え去っていた。頭上には、全身の神経の全てをそこに集中させたかの如く敏感な、二本一対の角が垂れ下がっている。

 しかし、何より最も不自然であったのは、夥しい数に膨れ上がった関節と、骨格であった。背骨の一つ一つはまるで大きく、はっきりとその形を認識することができ、尚且つそれが足の先まで続いている。

以下略



212:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 00:58:41.04 ID:w4dUq9e30
>>211
誤投下。失礼しました。


213:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 01:00:57.94 ID:w4dUq9e30

 昨日まで確かに存在した二本のしなやかな腕は、その指先に至るまで姿を隠し、胸から爪先にかけて二列に並んでいる無数の器官が、その代用を務めているようだ。

 その他肋骨や肩甲骨、骨盤などはさっぱり抜き取られた様子で...全く、これでは人間とはとても呼べぬ何か、おぞましい生物へと変わり果てたみたいではないか。

以下略



214:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 01:03:25.12 ID:w4dUq9e30

 少女はこの驚くほど奇妙で、この上なく奇怪な事変に、えも言えぬ恐怖を覚えた。恐怖を覚えたのだがしかし、そのままにしておくわけにもいかない。

 隣人がいつ部屋にやって来るのか分かったものでないし、持ち前の好奇心...怖いもの見たさとでもいうか...は、彼女を突き動かすには充分な動機となった。

以下略



215:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 01:07:05.19 ID:w4dUq9e30

 一呼吸おき、微かに残った理性を保ちつつ、ゆっくりと首を動かしにかかる。関節の一つ一つを意識し、細かい所作に気を配りながら、慎重に顎先を胸へと擡げていく。

 すると段々に、視線は天井から体の方へと移り、ついには眼前に自身の腹を見据える位置まで持って来ることが出来た。

以下略



216:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 01:09:06.36 ID:w4dUq9e30
 一部ではあるものの、体を動かせた事に安堵するも一転、その奇怪なる光景を目の当たりにした瞬間に、少女は愕然とした。恐怖なぞとうに飛び越えて、戦慄さえ感じた。





217:CG出版編集部 ◆rSMipP4xr.[saga]
2013/07/15(月) 01:11:18.12 ID:w4dUq9e30

 そこにいつもの見慣れた風采は存在しなかった。あるのは、目覚ましを黙らせた際に乱れたのだろう掛布団の隙間から覗く、何本もの支柱で区切られ、丸まった茶色い腹と、その脇に並ぶ細い脚の群れ。

 足先は背と一体と化して一本の尾となり、先端には鋭利な針が突き出している。...そして極めつけは 、対面に立て掛けてある姿見に写る、変わり果てた彼女の、顔。

以下略



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