3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/05/30(木) 00:34:39.27 ID:9mq4SAX+0
その日の撮影はよく覚えてなかった。記憶があまり無いと言ったほうが正しいかもしれない。
内容だけじゃなくて上手くいったのか、それともあんまり良くはなかったとか、それすらも覚えていない。
覚えてたのはただ1人、あの人の事だけ。
特に仕事が終わった時の、名残惜しそうな表情で手を振ってくれた事。
何故あんな表情をしていたのか、よく分からなかったけれど……
まゆはその時の顔が頭に焼き付いて離れなくて、むしろ離れないことが嬉しかった。
だって鮮明にあの人の顔を思い浮かべれるのだから。
撮影が終わってから、一目散に家に帰って彼から貰った名刺の事務所を調べる。
……分かったことは、都会の方で本当にまゆの居る場所から遠い所。
有名どころと比べて見劣りは当然しているものの、まゆにとってはその事務所の存在そのものが何よりも魅力的に見えた。
だって、あの人がいるから。
それだけで行く価値はあるのだから。
場所を調べた後は、すぐ行動に移ることにした。
理由は……もたもたしていられなかったから。
この気持ちがいつ収まってしまうのか分からなくて、収まってしまうのが怖くて。
次の日に事務所の人に辞めることを伝えると、驚かれたり、悲しまれたりした。
ちょっとだけ申し訳無いなと思ったけれど、事務所の人達もまゆの思いを大事にしてくれて、何も言わずに辞めさせてくれた。
事務所の皆さん、ごめんなさい。
それでも、まゆはあの人の所に行きたいから。
最後に、いつも以上に力を入れて作った差し入れの料理を振舞って……
スタッフさんの見送りの中、お世話になった事務所から離れた。
あの人の居る事務所はここから遠い都会にある。
自宅からなんてとてもじゃないけど行き帰りは無理だから、上京をする準備をして。
家族にはちゃんと話して、同意も得ることができたから、後はまゆ自身の勇気だけ。
慣れない乗り物に揺られて、あの人の顔を思い浮かんで都会へ向かった。
着いた時にまず目に入ったのは、全く違う景色。人がぐるぐる動いて、目が回って混乱しそうになる。
迷いそうだったけれど、唯一頼れる地図を頼りに人ごみの中をひたすらに進んだ。
……駅の中が一番迷ったのは、仕方ない事だと思いたい。
なんとか外に出て、タクシーなんか使っちゃったりして、そして見つかった1つの事務所。
間違っていないか何度も何度も、一字一句確認をする。……ここで間違いない。
意を決して、入り口であろう扉を叩く。
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