過去ログ - 奉太郎「軽音楽少女と少年のドミノ」
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461: ◆2cupU1gSNo[saga]
2014/04/24(木) 19:21:09.30 ID:ffmefjFJ0


それは記憶の有無には関係の無いことだったのかもしれない。
ドラムの演奏など、記憶があったところでどうなるものでもないだろう。
しかしちょうどよかった。
俺は軽く微笑むと、田井中がドラムの練習に使っていたと思しき雑誌を千反田の前に積み上げた。


「どうだ、ドラムの練習をしてみないか、千反田?」


「ドラムの練習を?」


「ああ、田井中はドラム人口の少なさに嘆いていたからな。
一人でもドラムに興味がある奴が増えれば、あいつだって喜ぶだろうよ。
それが田井中のことを憶えておくことにも繋がるだろうしな」


「そう……ですね。
わたし、田井中さんのこと、ずっと憶えていたいです」


「よし、それなら練習を始めようじゃないか、千反田。
俺も詳しいわけじゃないが、田井中に多少は教えられたからな。
少なくともお前よりはドラムに詳しい。
だがその前に……」


俺は立ち上がって、千反田の学習机に置かれていた物を手に取った。
田井中への誕生日プレゼントが入った袋だ。
それを千反田に手渡してから、もう一度腰掛ける。


「ドラムを叩くにはその前髪が邪魔だろう。
これを使えよ、千反田」


「よろしいんですか……?」


「ああ、俺は気にしないし、その方が田井中も喜ぶだろうよ。
今日がドラマー女子高生、千反田えるの誕生の記念日になるってわけだ」


「上手く叩けないかもしれませんよ?」


「いいさ、田井中もそこまでお前に求めないだろう。
お前が田井中を忘れたくないのなら、忘れないための努力をすればいい。
それだけのことだ」


「はいっ!」


千反田が袋の中からプレゼントを取り出す。
八月二十一日、俺が誕生日プレゼントに選んだ向日葵のバレッタ。
カチューシャで前髪を纏めるばかりが能ではないと思い、贈ってみたものだ。
田井中向けに選んでみたバレッタだが、前髪の長い千反田にも不思議と似合っていた。
そうして千反田はおそるおそるとだが雑誌を叩き始める。
田井中のそれとは似ても似つかない不器用なスティック捌き。
それでも俺たちは目的を同一にした仲間に思いを馳せながら、そのスティック捌きに目を奪われ続けた。

これから千反田の新しい未来が始まるのだ。


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