117: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:24:07.81 ID:2oBeuSMOo
「お待ちしていましたよ、Pさん」
『あなたは……。元気にしていましたか』
「もちろん。毎日が充実していますよ」
118: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:24:42.65 ID:2oBeuSMOo
『いや、ここで待たせてもらいますよ。流石にこの中に、部外者は入れないでしょう』
「何を言ってらっしゃるんです? ささ、みなさんお待ちですから」
『あ、お、おい……っ』
119: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:25:40.06 ID:2oBeuSMOo
「さて、諸君。注目してくれたまえ」
そんな仰々しい前言葉を置いて、社長はその場にいる全員を眺める。なんとなく、居心地の悪さを感じて、俺は少し肩をすくめる。
そんな俺のことなどお構いなしに、社長は俺の背中を叩いて、少し前へと押し出す。思わぬ衝撃に、少しバランスを崩した。一体、何のつもりなのだろうか。
120: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:26:11.25 ID:2oBeuSMOo
『一体どういうことです、これは。俺は今日茄子さんを引き取りに来たはずです』
その言葉を待っていた、と言わんばかりに社長はにやり、と笑う。どことなく意地の悪い笑みだ。ただ、悪意は感じなかった。子供がいたずらをする、といった表現が相応だろうか。
「あれは雇用契約書だよ、Pくん。君がこのプロダクションで働く、というね。ちゃんと中身は読まないといけないよ」
121: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:26:39.39 ID:2oBeuSMOo
社長は、ネタ晴らしをする子供のように、嬉しそうに、そして俺の唖然とした顔を楽しむように言葉を紡ぐ。やり場のない怒りがすうっと消えていく気がした。とはいえ、なんとなくもやもやは残っているわけだが。
そんな俺にお構いなく、社長は続ける。この人はやはり自由すぎる。内心文句を言ったのはここだけの話だ。
「先生から、後事を託されていたというのもある。ただ、このプロダクションには、有能なプロデューサーが六人いるものの……、ただ一つの人材が足りないんだよ。必要とあれば私にさえ楯突く気概のある、”正直者”が」
122: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:27:47.67 ID:2oBeuSMOo
「ただ、君はこうしてまた、正直者であることを取り戻した。だから私は君を何としても引き込みたかったのだよ」
『お言葉ですが俺は』
「業界から疎まれている、と君は言うだろうと思っていた。だからこうやって、だまし討ちみたいな方法で君を引き入れた。それについては悪いと思っているよ」
123: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:28:19.34 ID:2oBeuSMOo
『わかりました。ただ……、どんなことがあっても。俺を犠牲にしてもいい、茄子さんだけは、絶対に護ってください』
「当たり前だ。だが、私はPくんも護ってやるつもりだが?」
『大丈夫です』
124: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:29:01.99 ID:2oBeuSMOo
意味深な言葉を言うと、社長は再び俺に行きたまえ、と目線で語りかける。ハッパを掛ける必要はないと言っていた。では、何のための言葉だったのだろうか。頭の中で考えつつも、俺は自分にあてがわれた机に鞄を置くと、部の出入り口へ向かう。
ともかく、今は茄子さんの所へ行きたい。一刻も早く、彼女の傍へ。ここの構造は、下見の時に頭に叩き込んであった。アイドルたちが多く屯しているのはどこだったか――。そう思っていた時だった。
「――Pさんっ」
125: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:29:30.57 ID:2oBeuSMOo
「もう絶対、離さないでくださいね、Pさん」
『ああ、離すもんか』
「……絶対、トップアイドルにまで、連れて行ってくださいねっ」
126: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/07/01(月) 19:29:56.93 ID:2oBeuSMOo
『先に茄子さんが言ってくれ』
「いえいえ、Pさんがお先にっ」
『いやいや』
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