17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage saga]
2013/06/12(水) 20:57:35.29 ID:vLNSj/6Bo
触れて欲しいと思った。
だが触れてくれなかった。
もしあのまま触れてくるようなら、その場で聖剣を取り出し貫いてやったものを。
それは半ば本気の思いだった。
恵美(……なんて、嘘ね)
どこかで分かってしまっている。
彼はそんなことをしないから彼なんだと。
意識ははっきりしている。だが酔いは抜けず、頭がぼうっとする。
その熱に浮かされたまま、取り留めのない考えを巡らせる。
恵美(あいつが、想像通りの、物語に出てくるような、単純な悪であれば良かった)
恵美(この手で殺めることに何の躊躇いも覚えないような相手なら良かった)
恵美(……そうだったなら。こんな、もどかしさも、苦しみもなかったのに)
恵美(こんな中途半端な思いをするくらいなら、いっそ何も知らなければ)
恵美(何の因縁もない、ただの真奥貞夫と遊佐恵美なら、もしかしたら……)
律儀に部屋の隅で、壁にくっつくようにして寝息を立てる真奥を見る。
恵美(……馬鹿らしい)
自分とあの男には、勇者と魔王としての関係しかないのだ。
どうせ互いの身内を殺しあった仲。それしか、要らないのだ。
それ以上は何も考えず、恵美は目を閉じた。
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