1: ◆NbftaqZN9I[sage]
2013/07/04(木) 23:29:40.33 ID:1p2vt62m0
【吹く風に】
吹く風に、心躍り、ときめく季節。
本日は生温かな風が肌を撫で、髪を靡かせては去り往きます。
「このように湿気た日の夜もまた、心地よいものですね」
「そうだなー。貴音はいつもこの時間に外に居るのか?」
隣を歩くは、無二の友人である響。
両手を頭の後ろに組み、月を見上げたその横顔はいつもより大人びて見えます。
時折こうして響を誘い、外を歩いていますが、わたくしは今のような互いの顔を見ないで話す時間が好きです。
瞳を合わさぬ時間が長くとも、居心地悪く感じないという事が、響と私を繋ぐ友情の証であると……そう思えますから。
「ええ……夜風を受けると、それだけで悩みが無くなるような気がして……だから、この時間が好きなのです」
「……悩み事?何かあるなら相談に乗るぞ?」
ふと、わたくしを心配してか、組んでいた手を下ろした響が覗きこむように振り向きます。
わたくしとしては、ただそうして貰えるだけで心が軽くなるのですけれど。
嬉しいものですね……友が居るというのは。
「いえ、何か悩みがあるというわけではありませんよ」
「そうなの?」
「はい。ただ、悩みができた時には、こうして夜風に身を委ねるという話です」
「そっか……ねぇ、貴音」
「何ですか?」
少し言い淀んだ響が瞳を逸らし、また手を頭の後ろに組んで、月を見上げながら言葉を続けます。
その横顔はやはり大人びていて、全てを見通すような透明な声が聞こえてきました。
「その時には、自分も誘ってよね」
その一言が頼もしくて、嬉しくて、温かくて……
『トップシークレット』とはぐらかしてばかりのわたくしの弱さも、悟られているように思えて……
いつもの強がりは、どうあっても出てきませんでした。
だから。
「そう、ですね……その時は、隣に居てくださいね。響」
「うんっ!」
自然と、そんな言葉が漏れてしまいました。
それに答えてくれた響は、輝くようで……
夜の闇が一時だけ、昼の明るさを見せた気がしました。
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