300:真っ白と黒と無色の天使(お題:色鉛筆) 8/9 ◆/xGGSe0F/E[saga sage]
2013/08/11(日) 02:48:51.07 ID:VMBVgmEm0
それ以来、僕は時間の全てを使って絵に没頭するようになった。一日二十時間、僕は絵を描くことだけを己に強いた。そ
んな生活を、僕は五年近く続けていた。昔、絵画教室の先生が言っていたことだったが、有名な画家になる人は、一日のう
ち二十時間を絵に費やす、それを苦としない人間だけがなる事が出来る、と言っていたことを思い出した。その言葉を信じ
たたわけでもなかったが、雪原さんの幻想が壊れた僕の世界では、もはや絵しか残されていなかった。雪原さんと言う、素
敵な色が僕の世界から消え去ってしまった。だから僕は色のない世界で、皮肉にも不思議な色遣いの世界を描き続けた。そ
れは只の作業のようなものだったが、絵を描いている間だけは不思議と安らぎを感じることが出来た。僕の絵はしかし、だ
んだんとフランスを中心に評価され始め、高額な値段が付けられるようになった。もちろん、僕にとってその事実はどうで
もいいことだった。僕には最早、何の救いも存在しないのだ。僕の絵を見て救われる人が何万人いたとしても、僕自身は一
度も救われることがないのだ。大勢の人が僕の絵の色遣いを褒めてくれたところで、僕にはその色が見えないのだ。どれだ
けたくさんのお金をもらうことが出来たって、僕には使い道さえ思いつけないのだ。もう僕には絵を描くことしか、生きる
目的は残されていなかった。ずっと死ぬまで絵を描き続けて、奴隷のように描き続けて、知らない人たちに影響を与え続け
るのだろうと思った。もちろんそんな生活の中で、女の子と触れ合うこともしなかった。僕にとって、雪原さん以外の女の
人は、悪魔にしか見えなかった。と言うよりも、女の人それ自体を悪魔としてしか見られなくなった。
かつての友だった杉内は、エレクトロニカのアーティストとして、国内外で評価されていた。が、もちろんそんな狭い業
界で評価されたところで、彼が食っていけるはずがなかった。彼は音楽を作る合間に、犯罪行為に手を出すようになった。
マイナーな麻薬を売ったり、女性を脅して犯してから金持ちに売ったり、そう言った社会的にクズな人間になっていた。そ
のクズさが、とても彼に似合っているような気がして、とても自然に振舞っているような気がして、僕は彼に好感を持った。
「お前にも女を回してやろうか」
ある時、杉内と会った時に、彼は僕に向かってそう言ってきたことがあった。その言葉を聞いて、僕は自然と、彼に雪原
さんを犯す手伝いをしてもらうことを想像していた。彼女を薬かなんかで眠らせて、好き放題に犯す様を想像した。そこま
で堕ちてしまうのも悪くないような気がしたが、しかし何故だかそれをしてはいけないような気も、心の奥底ではしていた
のだった。社会的倫理だとか、法律のことだとか、そのような保身的な事を気にしたわけではなかった。僕にとって、彼女
は絶対に汚されてはいけない存在だと、思い出したのだ。たとえ雪原さんが他の男と付き合っていようが、彼女は僕の想い出
の中で一番清らかで美しい存在であって、そのような存在を自らが汚してしまっては、僕はもう残りの人生を、生きてはいけなくなるような、そんな気がしたのだ。
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