168: ◆m03zzdT6fs[saga]
2013/09/07(土) 00:51:53.08 ID:XIq8vfkGo
私は多少申し訳ないと思いながらも、目を閉じ、耳をそばだてる。目を閉じたのは集中するためでもあったが、恥ずかしそうにしている千秋さんに少し配慮したからだ。
もっとも、こんなことで配慮とは言わないのかもしれないが……。
しばらくすると、すぅ、という深呼吸の音が私の耳に響く。それが、二度、三度と繰り返された。そして。
「――」
私には、にわかに信じられなかった。今このバーの中に響いている歌声は、かつて私が彼女に与えた”ガラス”の声とは一線を画している。
凛と響くハイトーン、その中にさざ波のように引いては押し寄せてくるクリアな声。それでありながら、声の中に冷たさや威圧感と言う物は見受けられず、むしろナチュラルな温かみさえ感じる。
がちがちに凝り固まった心をほぐすような、自然と心にしみわたるような、そんな声。人の手によって作られた”ガラス”とは違う、自然の手によって創られた”水晶”の様な声。
それは良くも悪くも、彼女がただの人であり、同時に限りない努力家であることを示していた。
217Res/148.60 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。