4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/08/01(木) 23:08:58.49 ID:a9tfMA/V0
「わぁ……………!」
目的地である山の頂上付近の広場に着くなり、アナスタシアは我先にと車を降り、目を輝かせた。
「プロデューサー、Звезда…………星です!」
「そうだな」
「とても………とても綺麗です………!」
満天の星空を見上げながら、アナスタシアは何度もハラショーハラショーと言った。確か、素晴らしいという意味だったか。
彼女の言う通り、星空はそれはそれは見事なものだった。
都会ではまず見れない星の海には少なからず心を揺らされる。
だが、それ以上に心を揺らしてくるものがあった。
「プロデューサー! Milky Путь………天の川が見えます!」
これほど無邪気に笑う彼女の顔を見たことがなかった。
いつも落ち着いているアナスタシアを見て、滅多に感情を表に出さない彼女を見て、いつのまにか自分はそういうものなのだとイメージを押しつけてしまっていたようだった。
彼女だって、まだ十五才の少女なのだ。
星空を見て目を輝かせるような、そんな純粋な心を残しているのだ。
この笑顔を、皆に見せたいと思った。
この笑顔こそが、この純粋さこそが彼女の何よりもの魅力だと思った。
ようやくこの時、彼女のプロデュース方針が固まった。
「………プロデューサー?」
「ああ、悪い。………ほら、シートを持ってきてある。寝転んで夜空を眺めるといい」
「Действительно? ………アー、本当ですか? 用意がいいですね」
「なに…………担当アイドルからの初めてのおねだりだ。準備万端でないと申し訳が立たない」
そう言うと、アナスタシアは意外そうな顔をした。
「Я был рад………私からお願いされて、嬉しかったんですか?」
「…………もちろん。アイドルに頼られるのはプロデューサーとしては喜ぶべき事柄以外の何物でもない」
「…………そうだったんですか」
彼女は一度うつむいて、口を開いた。
「てっきりプロデューサーは、私とは仲良くしたくないのかと思っていました」
「…………そうなのか?」
「ダー。…………運転中はいつも静かですし、事務所で話しかけた時もあまり楽しそうにはしていませんでした」
「そうか…………」
言われて、ぐにと頬を触る。
自分としてはにやけているくらいの自覚があったのだが、現に頬は微動だにしていない。
「……………………すまない。一応自分では笑っているつもりだったんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。…………プロデューサーとしてあるまじきものだとは思うが、人に話しかけるタイミングというものを掴むのが苦手でな。アナスタシアに話しかけられたときはいつも嬉しくて仕方がなかったよ。…………まあ、何を話せばいいかよく分からずぎこちない会話になってしまったが」
申し訳なさに頭を掻くとアナスタシアも苦笑を返してくれた。
「そうでしたね…………いつも会話が続かなくて、困ってしまって」
「思えば…………そのせいで余計にぎこちなくなっていたんだろうか」
「そうでしょうね。Порочный круг………悪循環です」
「悪循環か………」
プロデューサーとして失格だ。
自らアイドルとの距離を離していたようなものなのだから。
だが、今気づいたのだから、最悪ではない。
「………アナスタシア」
「はい?」
「………その、今日はお願いしてくれてありがとう。おかげで、お前をちゃんとプロデュースできそうだ」
「………そうですか」
彼女は柔らかな笑みを浮かべ、
「………期待してますよ、プロデューサー」
にっこりと、まぶしい微笑みを向けてきた。
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