972:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/29(日) 23:31:33.88 ID:n+EZ0SdMo
  
  この人はクズだ。自分の大切なはずの子どもたちまで、ママとの新しい生活を始めるた 
 めの道具としてしか考えていない。妹ちゃんの切実なファミコンは全く実体を伴わない幻 
 想であり彼女の空回りに過ぎなかったのだ。 
  
  今のあたしは妹ちゃんと仲違いをしている。旅行のときの彼女の振る舞いや態度は最悪 
 だった。それでも池山さんの言動を聞かされていると、妹ちゃんが可哀そうに思えてくる。 
  
 「君と兄が一緒に暮らせばいろいろ楽しいだろうな。兄はいいやつだけどだらしないとこ 
 ろがある。君みたいな子が兄を世話してくれたら、あいつも目が覚めるだろう」 
  
 「いい加減に」 
  
 「一緒に暮らすことで芽生える感情もあるだろうし。今にして思えば姫と兄の間違いだっ 
 てきっかけは些細なことだろうしね」 
  
  二つの家庭を壊すための策略であることは十分にわかっていた。ただ、そのときあたし 
 の脳裏に池山さんが囁きかけていた新生活の幻影がよぎったのだ。 
  
  
  
  新しい家の朝。あたしは隣の部屋でなかなか起きてこないお兄さんを起こすため、お兄 
 さんの部屋に入る。声をかけてもお兄さんは起きてくれない。このままだと大学に遅刻し 
 てしまう。しかたなくあたしはお兄さんに手を触れる。そうしないとお兄さんが遅刻して 
 しまうから。 
  
 『お兄さん起きてください』 
  
 『うるさいな。邪魔するなよ』 
  
  寝ぼけているお兄さんの声。しかたなくあたしはお兄さんに手を触れる。もう時間がな 
 いからだ。ベッドの中で温まって寝ているお兄さんの体は暖かい。もう少し寝かせてあげ 
 たいという自分の心を鬼にしてお兄さんの身体を揺さぶる。お兄さんはぶつぶつ文句を言 
 いながら目を開ける。 
  
 『おはようお兄さん』 
  
 『妹友か。おはよ』 
  
  お兄さんが眠そうにあたしに答える。 
  
  これは今まで妹ちゃんが毎日繰返してきたことにすぎない。でも、その役目があたしの 
 ものになるのかもしれないのだ。 
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