15:一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo.[saga]
2013/08/30(金) 23:05:19.49 ID:aFfio2WDo
「うーん、やっぱちょっと神々しくいった方が勇者らしいかなあ……。王子君に嫌われたくないし……。
神々しいってなんだろう?光?……太陽?」
ぶつぶつと呟く言葉を聞く者はいない。
ただ、敵陣の動きを見て魔王軍も慌ただしく陣構えを整えつつある。
ゴーレムや巨人族を前衛にする非常にオーソドックスというか、堅実な陣構えである。
「――よし。
ええと。こんなかんじかな?うん。
こほん。
日輪の輝きを借りて!いま、ひっさつの!」
勇者の手に魔力が集まる。集まる。人の身としてはありえないほどの魔力を集積して……。
「ソーラ・レイ!」
手の平いっぱいのそれを解き放つ。
「なっぎはっらえー」
そして世界は光で満たされた。
「ふむ。順調、か」
見事なたてがみの獣人が満足げに頷く。ようやっと、である。彼が魔王軍の前線に赴いてから半年。それまでずるずると下がっていた戦線はようやく立て直されようとしていた。
魔王軍と言っても最前線では獣の類をまとめて突撃させるだけだったのが実情である。
通常ならば肉体的スペックの影響で圧倒できるはずであったのが、想定外なヒトの組織的な抵抗により苦戦を強いられていた。
それも今は昔の話。後方にアンデッドを十万揃え、航空戦力も確保した。一時的にしろ戦線を下げてしまったのは口惜しいが、それも今日まで。明日からは、反撃と蹂躙が始まるのだ。
その、蹂躙する獲物を見てやろうとばかりに身を乗り出す。やがて大地を朱く染めるであろうヒトの群れ。なんとも健気で、脆そうな。闘争本能がぐずり、と刺激される。
そして、違和感。危機感。本能的な、恐怖。
「光が、広がっていく――?」
それが彼の最期に発した言葉であった。
焦土、とはこのことであろうか。
王弟は一面の焼野原を見てそう思う。なんということか、と歯を食いしばる。
「よくやった」
だが、彼の口から洩れるのは勇者に対する讃辞である。
正直見誤っていたと言わざるを得ない。ここまで強力な戦力……などと言う範囲におさまらない。勇者というのはここまで階梯が違うものか。
これは、危険だ。
「よくぞ数万の敵軍を単身で討ち破った。その栄誉を讃えて勲章を……」
だから国家の法において管理せねばならない。そして、この勇者は気に食わないことに王子に心酔していたとのこと。いかにもまずい。
「うるさいなあ。勲章なんかでお腹はふくれないし、邪魔なだけだね。義理は果たしたから私はもう行くね」
やれやれ、と言った風に勇者はその場を立ち去る。
「ま、待たんか!」
騎士団長の声にも全く反応せず、歩みは止まらない。
そして、彼女の歩を止められる者はその場にいなかったのである。
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