過去ログ - ヤンデレ勇者とツンデレ王子
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4:一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo.[saga]
2013/08/28(水) 22:28:46.86 ID:zmsfoMalo
「王子、感心しませんなあ」

豚がよくも人語を口にすることが出来るものだ、などというのが王子の率直な感想である。とは言え、仮にも一国の大臣。その言は聞かねばならない。

「あのような下賤なモノに伝家の宝剣、更には王家の印の刻まれた指輪など……。悪用されたら如何としますか」

困ったものだと大げさに天を仰いだのは肉塊。そう称するのが妥当であろう、と王子は改めて思う。よくぞそこまで私腹どころか実体まで肥やしたものだ。

「勇者だぞ?あまりにみすぼらしければ我が国の沽券にかかわる。違うか?大臣よ」

「勇者。勇者、ですか……」

フフン、と大臣は笑う。哂う。

「勇者なぞというものがなくとも我が王国は魔王軍と伍し、押してさえいるではありませんか」

事実である。王国軍が魔族を相手取る戦線は比較的優勢という報告を受けている。

「まあ、軍部の要求を財務省が受けていたら今頃は魔王とて討伐していたやも……おっと失礼」

わざとらしく言葉を切る大臣。
ああ、そう言えば大臣の娘は第一王位継承権のある叔父――王弟――に嫁いでいたかと王子は感慨なく思いだす。
財政を預かる身として相当怨みを買っていたのだなと再確認する。

「フン、言いたいことがあるならば言えばよかろう」

「おお、こわいこわい。私のような愚物が王子に何か物を言うことなぞできましょうか」

くだらん、と王子は内心吐き捨てる。
実際ひどいものだったのだ。勇者に与えたのは申し訳程度の金貨数枚。それで魔王討伐に向かえとは。旅費にもなりはしないだろう。だがそれも仕方ないことではある。

魔王。その災厄。
数百年に一度現れるそれは、女神が加護を与える勇者という存在に討ち滅ばされるというのがこれまでの慣例であった。だが、此度の魔王降臨に際して勇者は顕現しなかったのである。
活性化する魔物。その被害に動員されたのは無論軍である。五年の長きにわたって治安を、人類の版図を維持したこの王国の軍功については語るまでもない。そしてそれを指揮しているのが王弟。王位継承順位の第一位の人物である。
軍事的手腕は確かなものがあり、じり、じりとではあるが確実に戦線を押し上げている。
故に、勇者なぞというものに頼らなくとも魔王討伐は叶うのではないか、という空気がある。そしてその立役者である王弟。魔王を見事討伐したならば王がその地位を譲るなぞという噂もある。まあ、本当に魔王という脅威を除くことができたならばそれくらいでしか報いることはできないだろうが。故にある意味で王子が持つ王位継承権第二位という立場は微妙なものとなる。
なんとなれば、王弟は大臣の娘との間に男児をもうけているのだ。例え王弟にその気がなくとも、取り巻きが蠢動する。王子を失脚させようと、だ。
目の前の豚はその筆頭。そんなに自分の孫が可愛いかと吐き捨てたくもなる。さて、今日はどんな無理難題を吹っかけられるのやら。

内心で罵詈雑言を数ダース吐き出しつつも王子の表情筋はぴくりとも動かず。静かに彼の戦場に向かうのであった。






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