4:以下、新鯖からお送りいたします[sage]
2013/09/04(水) 18:31:36.62 ID:bKqi92pu0
デビュー前からずっと貴音と二人三脚を続けてきた俺に取って
貴音の発する機微を捉え、それに応じてフォローするなどは雑作もないことだ。
喉が渇いたと言われる前に水を用意し、腹が減ったと言われる前にカップ麺に湯を注ぐ。
俺のような天才プロデューサーでなけりゃ、跳梁跋扈の世界を行くアイドルのパートナーは務まらん。
と言うのは真っ赤な嘘であり、喉が渇いたと言われてカップ麺に湯を注ぎ、
腹が減ったと言われて水を用意するような凡ミスばっかり犯している。
スタッフさんがセットの調整を終えるまであとわずかといったところか。
貴音は今、スタッフ用のパイプ椅子に座って少し手持ち無沙汰という雰囲気。
メイク、衣装、挨拶、本読みと、準備すべきことは全て終わっている。
その姿をみていると、よせば良いのについ口をついてしまうことがある。
「あのさ、この前は、ごめん」
だが、取り合ってすらくれない。
「いいえ」
「だって」
「何度も申し上げますが、わたくしは、あの件で怒ってなどおりません」
「でも」
「行って参ります」
「あ……うん、頑張って」
もう話は終わったとばかりに、貴音はすたすたとセットの方へ行ってしまう。
そもそも本番直前に面倒な会話をしかける俺さんサイドに問題がある。
プロデューサー失格の狼藉を働いた俺はただただ、遠ざかっていく後ろ姿を見つめながら立ち尽くす。
「怒ってない……か……」
ぼんやりとする俺の鼓膜に、スタッフさんの張り上げた声が叩き付けられる。
「まもなく本番はいりまーーーす……五秒前、四、三、二……」
この業界は、癒えることのない躁状態に冒され続けている。
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