過去ログ - ジオン女性士官「また、生きて会いましょう」学徒兵「ええ、必ず」
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26: ◆tK49UmHkqg[saga]
2013/09/18(水) 01:12:47.86 ID:DoNZuk/2o

 「5年前になるかしらね…私は15歳だったから。その日私は、家族と一緒に旅行先のサイド2から戻る最中だったわ…。小さなシャトルで、乗員乗客合わせて43人が乗っていた。月の衛星軌道に乗る直前に、連邦軍の戦闘機に停船勧告を受けたの。当時はもう、連邦とジオンは政治的にも軍事的にも対立状態にあって、そういうことも日常茶飯事だった」

「でも、その日は少し様子が違ったの。シャトルは勧告に従わなかった。それもそのはず、そのシャトルにはジオン側の議員と、それを護衛する諜報員が数名乗っていたからよ。今考えれば、彼らはサイド2でなにかの工作を行った帰りだったのかもしれないけど、とにかく、シャトルは止らなかった。連邦軍の威嚇射撃が始まっても、ね」

俺は話を聞きながら、中尉の顔を見つめていた。中尉は、これまで俺がうっすらと感じてきていた、あの後悔とも自責ともとれる、そんな表情をしていた。

「威嚇射撃でも止まらなかったシャトルを、連邦機は撃って来た。隔壁が破壊されて、エアーが抜けて、ひどいありさまだった。それからすぐに、機内で爆発が起こって、父さんと母さんがそれに巻き込まれたの…機体の破片だったのか、別のものだったのかはわからないけど、金属の破片が体中に突き刺さっていて、致命傷だってことはすぐに分かった。母さんが言ったの。『妹を守ってやってね』って。だから私は、妹の手を引いて、機内を走って、脱出ポッドへ向かった。動かし方なんてわからなかったけど、とにかく、シャトルに残っていちゃ、助からないって思ったから」

「ポッドを見つけて、登場するためのハッチを開けて、あぁ、これで大丈夫だって、思ったときにね、シャトルのエンジンが爆発を起こした。私はそのまま、脱出ポッドの中に吹き飛ばされていた。1メートル後ろのT字の廊下に居た妹は、もういなかったんだ…爆風と炎に巻かれてしまったんだと思う。運が良かったのか、悪かったのか、ハッチもその爆風で閉まって脱出ポッドは爆発の衝撃でシャトルから切り離された。私ひとりを乗せて、ね…」

それが、自責の理由?いや、今の話の中に、中尉に落ち度があるかどうかは、分からないが…いや、そもそも、この話と、昨日の出来事になにかつながりがあるのか?そう考えながら聞く俺を気にせず、中尉は続ける。

「そのあとすぐにやってきた救助艇に助けられて、私だけ生き残って、サイド3へ戻った。行く先も当てもない私は、自分たちを撃って来たのが連邦だった、ということだけを理由に、軍への入隊申請をしていたわ。15だったから、そのまま士官学校に入って、その寮で生活してた。入隊して、しばらくしてからの開戦だった。緒戦は、サイド3の警備班に配属されていて、戦線が拡大してから、私は地球へ降下する友軍の防衛のために、衛星軌道上を巡回する任務に就いてたの。そこで知り合ったのが、クレイグ隊長だった。ジャブローへの侵攻が失敗した直後から始まった地球からの撤退で、その第一便のHLVを軌道上で拾い上げて、サイド3へ戻ってきた。そこで聞かされたのが、この学徒部隊の指揮官募集について」

そこまで話して、中尉はぐっと手を握った。いったん黙った中尉は、話を続けようとして口を開いたが、声が出てこなかった。言葉よりも、気持ちが膨れ上がっているのが感じられる。

「中尉…ゆっくりで大丈夫ですよ…ちゃんと、聞いてますから」

俺は、見かねて中尉にそう伝えた。彼女は、目に涙をいっぱいに溜めながら、力強くうなずくと、また、大きくため息をついた。それでも、震えて掠れた声で

「私は…あの日のことを忘れたことはなかった。そして、まだ幼さの残るあなた達のことを思ったときに…私は、あの日をやり直せるのかもしれないってそう思った…。だから、この隊に志願したの。あの日守れなかった妹の代わりに、あなた達を守ってあげなきゃいけないんだって。あなた達を守って、あの日の苦しみから、解放されたいって…だけど…だけど、そんなの甘いよね…」

中尉は、そう言って全身の力を抜いた。俺の顔を見て、力なくほほ笑む。

 中尉の話は、分かった。この人は、大切なものを失った悲しみと戦えなかったんだ。そして、その代わりをずっとずっと探していた。時には連邦への憎しみに変えながら。そして、たどり着いたのが、この隊。ここで彼女は、俺たちを守ることで、忌まわしい記憶と決別したいと、そう考えたんだ。だけど、おそらく、部隊長とオスカーが戦死して気が付いてしまったんだ、現実に。

 この隊が大規模な戦闘に出て、普通に考えて、どのくらいの数が生き残れるか…5機がせいぜいだろう、と俺は常々思ってきたが、それも希望的な観測だ。全滅したって、なんの不思議もない。彼女は、過去から逃げようと思ったばかりに、こんな絶望的な状況の場所へと紛れ込んでしまったんだ…。

「ねぇ、アレク。エリックの操縦は、どう思う?」

不意に、中尉はそう聞いて来た。

「動かせるだけマシだと思っています」

「そうだよね…。彼の成績はね、上から数えた方が早いんだよ。もちろん、あなた達、研究所出身の子達を含めた順位で、ね」

そうだろうとは思っていた。訓練の最中は、全部の小隊の動きを見ることはできなかったが、オスカーにしても、キリにしても、エリックに似たり寄ったり。でも、二人はまだ良い方だ。キリの隊のもう一人は、歩く操作が出来る様になるまで、半日かかった。そいつはまだ宇宙には出してもらえず、シュミレーターでの訓練を指示されているらしい。そんなやつらがまだごろごろしている。そいつらが生存できる可能性は…あまり、想像したくない。

「来る場所を間違えたと、思っているんですか?」

俺は中尉に聞いてみた。しかし、彼女は首を横に振り

「甘えていたのは、事実。だから、そのことに後悔はしていないの。だけど…だけど…」

とそこまで言って中尉はうつむき、黙り込んでしまった。俺は無言で先を促す。中尉は、それを感じ取ってくれたのか、顔を上げ、震える唇で言った。

「クレイグ隊長の後任が、私に決まったの。これまでのように小隊だけじゃない、この部隊全体を私が守らなきゃいけなくなった…私は、それが怖い…。私の命令で、彼らは出撃する。死地へ送り出すのは、私。そして、きっと私は彼らを守れない。操縦がロクに出来ない子達だけじゃない。エリックも、キリも…ウリエラや、アレク、あなたでさえ…みんな子どもなのに…平和なら、ハイスクールに行って、友達とバカ話したり、ケンカしたり、遊んだりさ…私もそう言うことできなかったけど、そうやって暮らしてたはずなのに、どうしてこんなところで、戦争なんてやらせないといけないの…!?」
 


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