過去ログ - 奈緒「それでもやっぱり特別な日」
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7:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/16(月) 20:50:05.16 ID:jhlAvSnDo
助手席に乗り込むと、微かに甘い匂いがした。
誰もいない後部座席を見ると、大きめのビニール袋に入った箱がふたつ。アタシでも知ってるお店の名前が書いてある。
後ろを注視するアタシに、駐車場の料金を払い終えたPさんはあっけらかんと「中身はケーキだよ」なんて告白した。
こっちに来る前に買ってきたんだろう。
ちひろさんのメールといい、明らかに計画的な犯行だった。
シートベルトを締め、車が走り始める。
ケーキを気にしてるのか、速度もゆっくりめだ。
「……あのさ。Pさんは、自分の誕生日が来たら嬉しい?」
「正直この歳にもなると少し複雑だなあ。親から電話来るんだけどさ、まだ結婚しないのか、とか言われるんだよ。歳取ったからってそう簡単に見つかるかっての」
「あはは」
「でも、やっぱ祝われると嬉しいよ。誕生日って要するに、生まれてきてありがとう、生んでくれてありがとう、って日だから」
「……アタシも?」
「奈緒が生まれてなければ、こうやって出会って、プロデュースすることもなかったからな。感謝、するに決まってるよ」
赤信号。
一時停止した車の中で、アタシは正面を見たまま、口にするか躊躇いながらも呟く。
「ホントはさ、Pさんからメール来ないかなって、期待してたんだ。だから、まあ、直接学校に来たの見た時はぶん殴ってやろうと思ったけど」
「怖いこと考えるな……」
「でもやっぱ、忘れられてたらヤだもんな。祝ってくれて、すごく嬉しかった。ありがと、Pさん」
歳取って、慣れちゃっても。
何度も繰り返して、色褪せても。
特別な日だってことには、変わりないんだよな。
……と、特別な人に祝われれば、余計に、さ。
「俺の担当アイドルは可愛い奴だなあ……」
「かっ、かわ……!」
「よしよし、本当にいい子だよ、奈緒は」
「頭撫でんな! うぅ、もう、なんだよ……ばか」
青信号になって、Pさんの手は元の位置に戻る。
それでも撫でられた頭に熱の名残があって、嬉しくて、油断するとにやついちまいそうで、結局事務所に着くまでアタシは仏頂面をするしかなかった。
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