2:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/21(土) 01:54:55.39 ID:8ucU1b060
酒屋もコンビニもスーパーマーケットも素通りした。なぜならこれらの店は一定程度取り扱う商品の種類が決まっているからで、酒を買うなどと言い条、実際は現実から逃れ気分が落ち着くまで時間を潰したいだけの俺にとって、買って帰る、という直線的な動作だけでことが済んでしまう店はあまりにも便利すぎた。
結局やってきたのは地上3階地下1階建ての大型ショッピングセンターだった。米国の様式を形だけ摸した空虚な店内には食品、雑貨、衣類、家電、眼鏡、畜類、書籍など実にさまざまな商品に特化した店が立ち並び、各々の店を見ていたらとても一日では回りきれない、という実に今の俺におあつらえ向きな不便さを持ち合わせていた。
休日とあって店内は親子連れやカップル、女子高生や暇な爺婆で浅ましいほど混んでいた。げしゃげしゃであった。
内心うんざりしたがここで帰るのも癪である。大抵酒の売り場は一階、もしくは地下にある。半ば自棄になった俺は3階に向かうことにした。
なんかうるせえな、と思っていたら2階に上がってすぐの所、しょぼいステージが設置されていて、書き割りっちゅうんだろうか、市街地が描かれた板の前、奇怪な格好をした男たちが2人蠢いていた。どうもヒーローショーをやっているらしい。
ステージの前にはご丁寧に客席代わりのパイプ椅子が並べられているのだけれども、ステージ前に蟠ってエキサイトしている小学生数人を除くと観客はほとんどおらず、1階の満員になったフードコートからあぶれた親子がここを先途と揚げ芋を食っていたり、自意識だけ高そうな背広姿のサラリーマンが営業をさぼっていたり、汚い爺がぼんやりとカップ酒を啜っていたりして、混雑する店内においてこのステージ前だけが閑散としていた。
それもそのはず、ステージ上でおめいている「仮面戦隊ショウテンガイ」はテレビでやっているような戦隊もの・仮面ものではなく、地元商店街の宣伝・客寄せの為に商店主のおっさん達がこさえたヒーローだったからで、そもそも知名度が皆無な上に貧弱な予算と壊滅的なセンス、少々のパクリによって形作られたショウテンガイと怪人デフレスパイラルの格好たるや激烈にださく、見ているだけで侘しい心持ちになった。
演技の内容たるや更にひどかった。通常、かかるショーにおいては役者と観客の間を取り持つ司会進行のお姉さんがつきもの、というか必須なのだが、予算の都合なのかステージ上にそれらしき人の姿はなかった。シナリオについても「じゃあとりあえず2人出て行って何か話したあととりあえず戦って、それで〆ましょう。とりあえず」くらいの打ち合わせしかしていないのだろう、ヒーローと怪人それぞれの主義や主張、存在意義といった説明は一切ないままに、ただ善と悪。デフレスパイラルがほのめかす、自転車のわき見運転や狭い道を複数人で横一列に並んでそぞろ歩くなどといったけちくさい悪事に対し、ショウテンガイが「なんて奴だ」とか「そんなことは止めるんだ」みたいな空虚な返事をする、というやり取りが延々と続いていた。当然台詞は全て棒読み、しかも片一方が何か言うたびもう片方が辻褄合わせの返事のため、律儀に黙って聞いているものだから会話のテンポは乱れに乱れ、その上役者のおっさんの生々しい吐息の音をいちいちマイクが拾うのでむさ苦しいことこの上なかった。
それでもせめて発起人というか主犯格たる商店街のおっさん達が、観客席で役者の演技に対し適宜合いの手や拍手を入れるなどすれば多少は盛り上がったことであろう。しかしながらそうしたおっさん達の姿はなく、ステージ前でくんくんしている子供達も、真剣に応援しているのは一人の女の子とその弟と思しき幼児のみ。他のド餓鬼どもたるやダイレクトに役者の心を壊しにかかるような、口汚い野次を飛ばす有様であった。
一人分空けて爺の横に座った俺、それでも感動していた。
目が覚めるようであった。
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