過去ログ - モバP「光」
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6:以下、新鯖からお送りいたします[saga]
2013/09/21(土) 01:58:20.94 ID:8ucU1b060
「なんですぐに連れてきて下さらなかったんですか!?」

 インフォメーションセンターで待っていたのは迷子少年の母親による、のっけから喧嘩腰の、丁寧ながらも苛烈でヒステリックな問いかけであった。
 激情によって破砕された母親の話を総合するに、どうも彼女が3階で婦人服を閲していたところつい夢中になってしまい、子供への注意が削がれたらしい。好奇心旺盛、何よりも退屈を嫌う年頃の男の子にありがちなことで、少年は広い店内を散策しだすとエスカレーターに乗り込み、ついには迷子となってしまったわけである。
 つまりはまったくの不幸なめぐり合わせということで、一般的には主に子育てと縁遠い他人による「子供から目を離した母親が悪い」、そして主に経験者の「普段子育てに忙殺されている母親の気持ちもわかる」といった2つの見識・立場において議論が交わされるところであろう。そしてこの場合俺は前者に該当するわけなのだけれども、俺としてはその言に従うような、一般論を盾に母親と争うようなことはしたくなかった。

 なんとなれば俺には母親を攻撃できるような、そうしてまで守るような自分というものがなかったから。
 仮にそんな自尊心があったとしても、あのへぼ腐れた演劇においてすらお話にならないような人質役、いい年して小学生女児に助けられる一般人役の俺に舌足らずの声援を送ってくれた少年、その母親とはいかな理由でも争いたくはなかった。

「申し訳ありません。全て自分が悪いのです」

 俺はただマジな、ガチな現実から逃れんとして、マッカラン12年か何かを買いにきたあほな大学生であった。
 俺という個をいくら突き詰めたところで、結局のところそんなあほでしかないのだ。となればその役を演じきらなければならない。

「謝れば済む話じゃないでしょう? 私がどれだけ待ったと思ってるんですか!?」

「ちょっと待ってくれ!」

 光だった。マイクを通さずとも非常によく通る声であった。
 俺は悲しくなった。
 だってそうだろう。今の状況、ヒステリックな女と虚無的な男との俗っぽい不恰好な大人の論争に加わるには、光はあまりにもまっすぐで眩しすぎた。

「この人は違うんだ! アタシがヒーローショーに夢中になって――」

「あなた、こんな小さな子まで騙したの?」

「小っちゃくない!! もうすぐ140cmになる!」

 惨憺たるありさまであった。げしゃげしゃであった。



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