過去ログ - 盲目幼女「お腹が空いてるの?」狼「気にするな、もうすぐご馳走にありつける」
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2013/09/23(月) 22:22:05.79 ID:Z+ZcL0Ap0
オオカミ「疲れたろう。今日はここらで、一休みを入れないか?」
幼女がコクリ頷くと、オオカミは唇を舐めた。
所詮は、ひ弱な人間。丸一日歩いた今、その横顔には、疲労が滲む。
疲れ切った娘が、銃を手放して眠るまで、あと少しだろう。
だがオオカミも、空腹で目眩を覚えていた。
何日も飲まず食わずだ。思い出したかのように、腹の虫が鳴く。
幼女 「お腹が、空いているの?」
オオカミ「気にするな。もうすぐ、とびきりのご馳走にありつける」
幼女 「でも辛そうだよ。そうだ、これを食べなよ」
差し出されたのは、残り半分も無いパンだ。そんな物、普段は喰えたものじゃない。
だが囓ったそれは、それほど悪く無かった。
さらに水筒を飲み干して、やっと腹の心地が付く。
オオカミ「お前は、腹が空かないのか」
幼女 「うん、森に入る前、たっぷり食べたから。まだ、お腹空いてないの」
こっちは飢え死に間近なのに、随分と良い身分らしい。
すると、幼女が銃を手放していることに、気づいた。
――しめしめ、狩るならば今だ。
オオカミは、その大きな口を開け、牙の先端が白い喉元に、近づいていく。
娘が唇を開いたのは、その時だ。
幼女「ふふ、オカさんは、私のお兄ちゃんみたい」
オオカミは、牙を引いた。自分も誇り高きオオカミの端くれ。
最期の言葉くらいは、聞いてやろう。それが強者の作法だ。
幼女 「お兄ちゃんは、とても優しかったんだ。目がダメな私のために、ご本とか、読んでくれたんだよ」
オオカミ「そうか、それは俺と違って、良い兄だ。だからお前はこんなにも急いているのか。早く兄の元へ帰りたかろう?」
幼女 「……それも、悪く無いかな。私も早く、お兄ちゃんに会いたい」
オオカミ「ならば早く、用事を済ませて帰ることだ」
どこか娘の言葉が引っ掛かるが、どうせ帰すつもりは無いの。
だから、些細なことだと、オオカミは特に深くは考えなかった。
疲労に負けた少女が目を閉じると、オオカミは口を開いて、ふと思い直す。
まずいと思っていたパンが、空腹だとそれなりに感じたのだ。
もっと腹を空かせてからなら、少女の肉も、さぞ旨く感じるだろう。
滅多に無いご馳走だ。どうせなら贅を尽くしたく、それは我ながら名案に思えた。
娘が体を震わせた。毛皮に覆われたオオカミと違って、薄いケープしか羽織らぬ娘に、森の冷気は堪えるらしい。
死んで固くなった肉は旨くない。オオカミはその巨体で寄り添うと、驚いた幼女が毛皮を掴む。
――しまったと、オオカミは思った。
幼女 「これはこれは、まるでオオカミの毛皮みたいに、力強い毛皮だね」
オオカミ「そ、そうだとも。これはオオカミの毛皮だ」
幼女 「それに温かい。まるでこの毛皮がまだ、生きているみたい」
オオカミ「そ、それは俺は暑がりで、俺が着ていた物には、いつまでも体温が残るのだ」
幼女 「そんな温かい物を借りたら、オカさんが寒いでしょう?」
オオカミ「言っただろう。俺は暑がりなんだ。この程度の冷気、むしろ心地が良い」
納得したのか、娘は再び眠りにつくと、今度は深い寝息を立てる。
やれやれと、オオカミは息をついた。
危なかった。もし娘の瞳が僅かでも見えていれば、今の間に撃たれたことだろう。
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