過去ログ - 一夏「祈るがいい」
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182:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2013/12/08(日) 00:38:01.69 ID:uj9ooahQ0


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試合当日の朝。その日は早くから、強い横殴りの雨でもなく、降っているのか分からないような小雨でもなく、しとしと雨が降り続いていた。その雨音の静けさに、もうひと眠りできそうだった。
鈴は、静かに息を吐き出しながら構えをとる。そこから素早く、突くように右、左と拳を二発、三発と突き出した。そして、連続で蹴りを繰り出し、掌打、回し蹴りと続けた。着地して、再びゆっくりと息を吐き出し構えて、動きの流れを確かめる。そしてもう一度自分の思うがままをそのままに、水が流れに形を変えていくように自由自在に流れるような連撃を繰り出す。そして、放った蹴りを止め、そこからゆっくりと水平に動かし、その動きがピタリと止まった。
自分の一挙一動に、前にない鈍さを感じた。自分が身体の動きについていけていない。それはおそらく自分の中に生じている迷いが動きを鈍らせている、と鈴は分かっていた。
結局あれから一夏とは、全く話せていない。箒やセシリアに手伝ってもらい、何度か話に行こうかと試みたが全てダメだった。いつもあと少し、というところで失敗してしまう。彼女自身、それは今回に限った話ではなかった。
鈴は、自分のベットに寝転がりながら、ひどい虚脱感を感じた。どうにかしようにもやるせない。起き上がろうとする気すら湧かなかった。

「ブルースというのは、どうにもならない困りごとのことを言うんだ」

どこかのブルースマンが、ブルースの定義を聞かれてこう言ったらしい。そしてそれは、今自分の中でとびっきりのブルーを組み込まれて演奏されているのだろう。例え何年何十年たってもブルースと言うものは、いつも何処かの誰かが奏でていて、いつでも途切れることがなく、いつの間にか自分が陥ってしまっている。人間にとってもはや当たり前の、感性の習慣病ようなものなのだろう。特効薬でもあれば、誰もがそのしがらみから解放されるのだろうが、そうもいかない。それをちょっと治すのにも大変な労力を必要とする難病中の難病。

「ブルースだからブルーって……笑えないっての」

鈴は、ため息を吐いた。こんなのは自分らしくない。ベットから飛び起きて、外を眺める。
外を見ればうんざりするほどの雨、曇った灰色の空、眩しく差し込む日の光などない。


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