227:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/15(金) 12:55:18.01 ID:o9K3eon50
いきなりそんな呼び方するなんて、ずるい子。
篠宮未琴(女子特別参加者)は軍刀を地面に置き、最早虫の息である同業者・道下未来(男子十七番)を見下ろした。
右膝から先は爆発物を踏んだことにより消失し、真っ赤な池を作っている。
右手も同じ色に染めている。
いつ失血死してもおかしくない出血をしながらも、ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、まだ未来は生きていた。
生きて、今にも泣き出しそうな目で未琴を見上げてくる。
未琴と同じく軍の最高機密である人間兵器“天使”の1人で、未琴と同じく肉弾戦はあまり得意ではなく(と言っても、素人目から見れば達人の域だろうが)銃器の扱い全般を得意とする、通称“硝煙の天使”。
未来は“天使”となった頃から、いやそれ以前から、射的や輪投げのような狙った場所を正確に捉えることに関しては天性の才能を持っていた。
その才能をたまたま見られてしまったからこそ、二階堂一成に“天使”としてスカウトされてしまったのだ、と未琴は思っている。
人に傷付けられるのはとても嫌いだけれど、周りの人が傷付くくらいなら喜んで自分が傷付くことを選ぶ自虐的な子。
本当は、人を傷付けるなんてできるはずのない優しい子。
ずっと見てきたから知っている。
あたしの同業者。
そして、あたしの、たった1人の家族。
未琴が生まれた家庭は、地獄だった。
酒とギャンブルに溺れ、気に入らないことがあれば周りに当たり散らす男。
夜の仕事をしながら家計を支えた――と言えば聞こえはいいが、日々違う男と外へ出掛け、家庭を疎む女。
そんな2人の間に最初に生まれたのが、未琴だった。
未琴は虐待を受けていた。
殴られ、蹴られ、後から思えばあの暴力を受けてよく生きていられたものだと思う。
怖い、辛い、痛い、苦しい、悲しい――だが、狭い世界に生きる未琴にとって、たとえ人でなしでも両親が世界の全てだった。
それ以外に縋れるものは何もなかった。
虐待を受けたものの、死なない程度には食料を与えられ、小指の甘皮程度の大きさの愛を受けてきたので、どんな仕打ちを受けても、暗い世界でも、未琴は生きた。
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