228:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/15(金) 12:55:45.33 ID:o9K3eon50
未琴がもうすぐ2歳になろうかという頃、弟が生まれた。
とは言っても、2歳に満たない頃の記憶なんてはっきりしていないので、未琴が物心ついた時には、既に弟がいた、という方が正確かもしれない。
双子の弟――兄の未散、弟の未来。
『未琴はお姉ちゃんになったのよ』
あの女が、母親らしいことを言っていた。
未琴の記憶に残る、唯一の母親の母親らしい姿だ。
みことはおねえちゃんだから、みちるちゃんとみらいちゃんをまもってあげるんだ――幼いながらに誓ったことも、うっすらと記憶に残っている。
父親は相変わらず飲んだくれだったけれど、母親は外出している時間が長かったけれど、何となく篠宮家という家族の形ができていた時間だったと思う。
未琴はやがて小学校に入学した。
相変わらず虐待がやむことはなく、あまり学校には行かせてもらえなかったし、たまに行けば痩せ細り痣だらけの未琴にクラスメイトたちは遠ざかっていくばかりだった。
学校の教師や児童相談所の職員などが家に何度も来たが、両親は実態が明るみになることを恐れ、いつも門前払いをしていた。
未琴も両親から「家のことを訊かれても何も答えるな」と何度も言われてきたので、何を訊かれても「なんでもないよ」と答え続けていた。
家は相変わらず地獄のようだったけれど、そんな中において未琴の救いと生き甲斐は、2人の幼く可愛い弟の存在だった。
弟たちにとっても、姉の未琴は唯一縋れる存在だった。
両親の機嫌が悪い時には、未琴は弟たちの盾となった。
弟たちがその小さな手できゅっと未琴の服を掴む度、何としても護ってあげなくてはいけないという姉としての使命を感じていた。
そして、あの忌まわしい日がやってきた。
未琴は6時間の授業を終えて、家のあるアパートに着いた。
ヒステリックな母親の声と、泣き叫ぶ弟たちの声がドア越しに聞こえた。
今日は母親の機嫌が悪いのだな、そう思いながら、そっとドアを開けた。
家の中には、未琴の想像をはるかに超えた状況が広がっていた。
床や壁は赤く汚れていた。
父はいつも通りの赤ら顔で、引きつった笑みを浮かべていた。
その前には、血の海の中でぐったりと倒れている未散。
そして母親は、今まさに、未来に血まみれの包丁を突き刺すところだった。
護らなきゃ…お姉ちゃんだから、未散ちゃんと未来ちゃんを護らなきゃ…!!
普通の家庭で育った普通の子なら、外に助けを求めたかもしれない。
しかし、暴力が日常茶飯事という環境で育ち、たとえ小学校という外の世界に行っていても外の世界の他人と関わってこなかった未琴は、そんな手段を取らなかった。
台所にある包丁を手に取った。
子は親の真似をするという。
未琴は、まさにそれを実践してみせた。
未来をめった刺しにしている母親の首に、力一杯包丁を突き刺した。
人体の急所なんて知らない、無我夢中で肌が露出している首を刺したのだ。
首から血飛沫を迸らせながら、限界まで目を見開いた母親は倒れた。
血飛沫を浴びて全身を真っ赤に染めた未琴を、父親は驚愕の表情で見下ろした。
逃げ出そうとした父親は、酔いとパニックで足をもつれさせて倒れた。
お父さんもいなくなれば、未散ちゃんと未来ちゃんを助けられる――未琴はその体に馬乗りになり、その首に包丁を突き立てた。
母親と同じように血飛沫を上げ、父親も事切れた。
こうして、篠宮家は終わりを迎えた。
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