233:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/11/15(金) 12:58:53.59 ID:o9K3eon50
空から降ってきた滝川哀(担当教官)の声に、木下亘(男子特別参加者)は顔を上げ、隣で自分の肩に寄り掛かって眠りに落ちている相模夕姫(女子七番)の体を揺すって起こした。
2人はひとしきり泣いた後、そのまま仮眠を取った。
恥ずかしいことに、怪我の失血に加えずっとずっと独りで抱えてきた荷物が肩から降りたことで気が抜けた亘は酷い眠気に襲われ、立ち上がれなくなってしまった。
苦笑した夕姫が休憩を提案し、先に亘が眠った。
夕姫の膝を枕として借りて眠るのはとても気恥ずかしかったのだが(もちろん表情には出ていなかったが)、夕姫が頭を押さえつけるものだから逃げようもなく、抵抗することも諦めて目を閉じた。
2時間ほどで亘は目を覚まして今度は夕姫が眠る番になった時、亘も膝を貸そうかと提案したのだが、「そんな恥ずかしい真似できるかっ!!」と一蹴され(それをやった俺の立場はどうなるんだ)、座ったまま亘の肩に寄り掛かり、夕姫はやがてすうすうと寝息を立て始めた。
肩から伝わってくる体温が温かく、その温もりがとても幸せなものに思えた。
夕姫が自分から離れていかなかったことに何度も感謝した。
「…ああ、もうこんな時間になったんだ…」
夕姫の体温が肩から離れた。
まだ眠たそうに目を擦っていた夕姫は、もたもたと地図を取り出した。
地図に添付された名簿は、その大部分に小さなチェックが入れられていた。
もうプログラムが始まってから3日目、“仕方がない”と言えば夕姫に殴られるかもしれないが、それでも仕方がないとしか言いようがない。
『それでは、戦死者の発表を行います。
女子十番・寺内紅緒さん。
女子十七番・水無瀬繭子さん。
女子十五番・堀内尚子さん。
男子十七番・道下未来君。
以上4名です』
「べに…お……まゆこ……なおこ…まで…?」
夕姫が放心状態で呟いていた。
紅緒と繭子とは、亘も面識があったのでちくりと胸が痛んだ。
疑わしすぎる自分のことを受け入れてくれた、夕姫に輪を掛けて男前だった紅緒と、とてもクールな印象を受けた繭子の表情が浮かび、消えた。
そして尚子も退場したことで、女子はたった4人しかいないということになった。
今隣にいる夕姫、夕姫の親友だという三枝妃(女子六番)、資料上には周りより1つ年を重ねていると書かれていた前川染香(女子十六番)、そして、あの篠宮未琴(女子特別参加者)。
夕姫には悪いが、亘が何よりも衝撃を受けたのは、未来の名が呼ばれたことだった。
資料にも書かれていたし、哀からも聞かされていたので、未琴の同業者“天使”である未来のことは警戒していた。
教室では担任の芝崎務を殺害したという。
特別参加者として参加した未琴とは違い、未来はこのクラスに所属しており武器使用に対して制限がない上に、元々銃器の扱いを得意としているという情報があり遠くから攻撃されればかなり危険だと思われたので、ある意味未琴よりも警戒しなければならないと思っていた。
しかし、まだ残り人数のいる中で、その“硝煙の天使”は堕ちたのだ。
恐らく、未琴が手を下したのだろう。
“天使”がごく一般の中学生にやられるはずがないのだから。
『続いて禁止エリアの発表です。
午後7時から、A=09エリア。
午後9時から、I=09エリア。
午後11時から、J=02エリア、以上です。
夜になりますが、皆さんの健闘を祈っています。
それでは、日付を回った午前0時にお会いしましょう』
哀の放送はぷつりと切れた。
哀も本部の中学校で缶詰状態になって丸3日(いや、準備のためにもう少し前から家を留守にしていたので、もっと長い時間だ)になるので、声がかなり疲れているように感じられた。
体調を崩してはいないだろうか、と想いを馳せる。
夫の木下亨(軍人)が傍にいるので大丈夫だとは思うが。
亘は意識を遠くの母から近くの夕姫へと戻した。
特に紅緒とは仲が良かったと言っていたので、受けたショックは相当のものだろう。
「夕姫…」
「…誰だよ……紅緒たちを…殺したの…ッ」
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