1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2013/10/30(水) 20:40:06.20 ID:3/OSs1/3o
サンシャインクリエイションのSS同人部にて発行されたコミケ本に寄稿したものです。
内容は送った時のままです。
短編ですので暇つぶしにでもどうぞ
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:40:55.22 ID:3/OSs1/3o
突然だが『テセウスの船』というものを知っているだろうか。
別名『テセウスのパラドックス』とも呼ばれ、
ある物体の全ての部品が置き換えられたとき、
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:41:28.01 ID:3/OSs1/3o
いまいちピンとこない話かもしれない。
僕だってそうだ。
たまに哲学に関して友人とあーでもないこーでもないと話すのは好きだが、
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:42:02.11 ID:3/OSs1/3o
「もうほぼダメですね。全身に転移してしまっています。
『交換』してしまったほうが早いでしょう」
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:42:38.01 ID:3/OSs1/3o
「これをご覧ください。このマークが癌です。
そしてこのマークがついた位置、これら全てが癌ということです」
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:43:12.49 ID:3/OSs1/3o
「どうしてこんな状態まで放っておいたんですか?
……まあ自分で気づけというのも幾分か酷な話ではあるのかもしれませんが」
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:43:55.13 ID:3/OSs1/3o
そんな医師の説明を聞いてもやはり僕は上の空だった。
まるでドラマのワンシーンでも見ているかのようだった。
自分のことではない、他人のことを聞いているかのように。
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:44:23.46 ID:3/OSs1/3o
『交換』か……
そうだよな。交換すればいいんだ。
そうすれば今まで通り、また普通に生活ができるんだ。
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:45:05.18 ID:3/OSs1/3o
後日、私は一枚の契約書の前でやはり動けないでいた。
それは『交換』を承認するための書類。
あくまで必要な手続きの一つ。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:45:33.79 ID:3/OSs1/3o
しかしいくら言い聞かせても自分の頭の中でずっと支配し続けていることがある。
『テセウスの船』
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:46:20.12 ID:3/OSs1/3o
まさに僕は今これと同じような状況なのではなかろうか。
別に全部の部品を、臓器を置き換えるわけではない。
何も問題のない臓器はそのまま続けて使えるわけだし、
僕という存在自体は何も揺るがないはずだ。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:46:50.65 ID:3/OSs1/3o
僕はもっと生きたい。
僕は僕でありたい。
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:47:40.08 ID:3/OSs1/3o
次の日も契約書と向き合うが、そこから先に進まない。
サインするだけだと理解はしているが行動には移らない。
とりあえずは会社に事情を説明し、長期の休暇を取る。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:48:11.45 ID:3/OSs1/3o
上司の優しさに感謝しつつ、実家に電話をかける。
事情を簡単に説明するとお袋が
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:48:54.50 ID:3/OSs1/3o
荷物をまとめ、駅へ行き新幹線のチケットを買う。
どうせだしゆったりしたかったので指定席だ。
2時間ほど揺られ今度は鈍行に乗り換える。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:49:43.46 ID:3/OSs1/3o
そのまま車に揺られ、実家についたのが昼過ぎ。
お袋は昼飯を用意して待っていてくれた。
初夏らしく涼しげなそうめんだ。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:50:24.34 ID:3/OSs1/3o
散歩を終えて戻るといい頃合で、両親は晩飯を作って待ってくれていた。
並んでいる料理はどれも僕の好物ばかりだった。
久々に腹いっぱいに好物ばかりを食べて満足していると、
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:51:05.78 ID:3/OSs1/3o
「……仕事はどうだ」
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:51:39.42 ID:3/OSs1/3o
沈黙が場を支配する。
しかし、それは嫌な沈黙ではなかった。
心地よく、そのまま身を委ねてしまうと眠ってしまいそうな。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:52:12.88 ID:3/OSs1/3o
「『交換』……するのか?」
「……なんだよそれ。そんなの当たり前だろう?」
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/10/30(水) 20:53:01.81 ID:3/OSs1/3o
「お前は俺に似てるからな。『交換』するの嫌なんだろ?」
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