302: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:12:23.15 ID:cp6WeGbSo
ちひろは、ゆっくりと、瞼を開けた。
「――……勘の良い子はいけませんねえ」
303: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:14:25.32 ID:cp6WeGbSo
「――結論から云いましょう、凛ちゃん……いえ、ワ号。あなたは渋谷凛のクローンです」
オリジナルはあなたの云う通り1995年8月10日生まれですよ、とクイズの正解者を讃えるような拍手を付け加えた。
「――あなたは、2041年に偶像の役目を終え苗床となった別のクローン、ヘ号から、2043年に産み落とされたのです。体齢15まで成長させてからは人工冬眠状態にしてね」
304: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:17:14.50 ID:cp6WeGbSo
そして、別の話題を振る。
「――凛ちゃん、アルベルト・アインシュタインのことは知っていますよね?」
「そ、そりゃ勿論……知らない人なんていないはずだよ」
305: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:19:20.14 ID:cp6WeGbSo
「――彼が現代に生きていれば、その脳を数値化―サブリメーション―して、身体もクローンで維持して行くことでしょう。そうしなければ、人類にとって大きな損失です」
「だ、だからってそれが私の身に何の関係が――」
凛が云い終わらないうちに、ちひろは「それと同じことなんですよ」と遮った。
306: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:20:30.52 ID:cp6WeGbSo
「――あなたがデジャヴを感じた映像の屍体は、こないだ投身したヲ号のものです。画が市井に出回るとは根回し不足でしたね。さらにそれを凛ちゃんに見られるとは」
ちひろは腕を組んで、はぁ、と嘆息した。
「――あの子は、偶像としては、ヘ号以来の優秀株だったので、苗床にする予定でした。でも、死んじゃったので仕方ありません」
307: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:21:50.62 ID:cp6WeGbSo
凛は、絶望を憶えた。
先ほどからの動悸がずっと止まらない。
「――賞味期限が切れて不要になれば、脳味噌をフォーマットしてから“マーケット”に売り払ったり、または新しい器を作製する為の“苗床”や“養分”にしたり」
308: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:37:31.77 ID:cp6WeGbSo
「……“マーケット”に売ったあとの、元アイドルたちは、一体どうなるの」
それぞれのクローンが、アイドルとして演じられる適齢期を過ぎ、用済みとなっても、『かつてアイドルだった身体』は高く売れる。
第一線で活躍しているCGプロ所属者なら尚更だ。トップアイドルたる凛のそれなど、途方も無い価値がつこう。
309: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:41:03.08 ID:cp6WeGbSo
「――知らぬが仏とはよく云ったものです。呪うなら、私ではなく“渋谷凛と云う遺伝子そのもの”を、そして頭が良く切れると云う自らの個体差を怨んでくださいね」
感情なく淡々と述べるちひろを仰ぎ見る。
「こ、個体差って……ちひろさんの云う通りだとしたら、私はクローンなんでしょ? なら丸っきり同じものが出来上がるはずじゃ……」
310: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:41:47.39 ID:cp6WeGbSo
柔和に手を叩くちひろを無視して、さらに詰問する。
「IDカード認証の次に、一番確実だけど最も面倒なDNA認証へ、なんで一足飛びで行ってしまうのか、その理由がこれなんだね……!」
DNAより手頃でかつ充分な精度の生体認証方法は数多く在る。指紋、声紋、静脈、虹彩、網膜……。
311: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:42:26.69 ID:cp6WeGbSo
「――察しが良くて助かります。やはり頭脳が優秀な個体ですね、あなたは」
「……云われてもあまり嬉しくないな……」
うなだれる凛へ、ちひろが更に言葉を投げつける。
312: ◆SHIBURINzgLf[saga]
2013/11/04(月) 01:43:44.22 ID:cp6WeGbSo
刹那。
凛の身体は羽交い締めにされた。
「なッ!?」
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