過去ログ - 【艦これ】五十鈴の調子が悪いようです【SS】
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8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)
2013/11/11(月) 20:33:02.61 ID:foU1KJOC0
在がどれほど危険で恐ろしいかは知っているだろうに、そう口にせずにはいられないのである。
 だが、恐怖で口を開かずにいられないのはベテラン乗組員とて同じことだ。
「見かけでまどわされるなよ……深海棲艦っていうのは、強力な個体ほど人間に近い姿なんだぞ」
「こんごう……あたご……かつて自衛隊が保持していた艦艇の数々も、あれと同じやつに沈められたんだ。こんなちゃちな輸送船より、遥かに強力な船がだぞ」
 艦橋内を、重苦しい沈黙が包み込んだ。
 それを引き裂いたのは、艦娘のモニタリングに努める管制官である。
「哨戒中の吹雪、白雪、初雪、深雪、交戦に入ります!」
「五十鈴と由良はどうだ!? 経験豊富な彼女らも加われば、あるいは……」
「そ、それが……」
「何かあったのか!?」
「由良からの通信によると、五十鈴の艤装は着装に応じず……その、艦娘の力を失ったのではないかとのこと!」
「な、なんだと……!?」
 今度は沈黙のみではない。
 冷えた手で心臓をわしづかみにされたかのような、恐怖と絶望が一同の胸に染み渡った。
 それまで、彼らはまだ信じていたのである。
 艦娘がなんとかしてくれる。必ず自分たちを守り抜いてくれると。
 それを強く裏付けていたのが、護衛艦隊の隊長を務め、これまで数々の武勲を重ねてきた五十鈴の存在だったのだ。
「神は、我々を見捨てられたのか……!」
 船長職にあるまじき弱気な発言を漏らすが、それを咎められる者など、この場にいようはずがない。



 こうしてうなだれ始めてから、どれほどの時が流れたのだろうか。
 実際のところは数分にも満たない間だが、五十鈴を名乗っていた少女にはそれが無限の時にも感じられた。
 今頃、仲間たちは絶望的な戦闘に身を投じているに違いない。
 敵がどのような存在であるかは、艦娘に共通して渡される通信用のデバイスから漏れ聞こえた声で分かっていた。
 おそらく、万全の自分が加わっていたとしても勝ち目のない相手……。
 それでも、仲間と共に海の藻屑と消えるのならば、それでこの輸送船が逃げる時間を少しでも稼げるのならば、まだ己を許せただろう。
 だが、今の自分はその資格すらも消失しているのだ。
「お若いの? そんなところで何をしているんだ?」
 その背中に、声がかけられた。
 振り向けば、そこに立っていたのは剃髪に見えるほど髪を短く剃り落した60男である。
 小肥だが立派な体格をしており、柔和な表情を浮かべていた。
「あなたこそ、こんなところで何をしているのですか?」
 少女は驚いた。
 自分以外に、こんな時にこんな所で油を売っている人間がいるとは思わなかったのである。
 しかも、この船に乗って一ヶ月が過ぎているが、このような乗組員を見た覚えがなかった。
「俺か? どうも駄目そうなんでな、こうして最後のお楽しみに来たわけよ」
 そういって男が掲げて見せたのは、一本のウィスキーである。
「そ、そんなものどこで……?」


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