23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/12/05(木) 00:10:51.58 ID:My2ZDWWTo
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まだクリスマスソングが街中に鳴り響くには早過ぎる。
秋の後、冬の前。
丁度もうすぐ訪れるであろう空のグラデーションを想像しながら、俺達は落ち葉を踏みしめて歩き出していた。
「……お時間をとらせて、すみません」
日中のささやかな喧騒の中、風音にすらかき消されそうな声で翠は言った。
言葉の意味を咀嚼するその前に、事の起こりをまず考えなければならない。
どうして待ち合わせ場所に渚ではなく翠が現れたのか。
――古典的な方法故に、解を導くのにそう時間はかからなかった。
要は、俺達はまんまの渚に嵌められた、ということだ。
恐らく翠の携帯電話には、俺へと届けられたメールと似たような文面が届けられているに違いない。
結局は渚の方が一枚上手だったのだ。
そして、誕生日の前日にこうして買い物に誘う、という名目で俺達を引きあわせたのだろう。
全く、事務所の雰囲気もあるとはいえ、仕事上の人間を形はどうであれ騙すのは頂けないな。
まあ、結果的に約束通りの事になっているので悪い話ではないのだが……。
ともかく、今は現状を見据えるべきだ。
「気にするなよ。最近は翠と話す機会も減ったから、嫌とは全く思ってないぞ」
せっかくの俺の時間を自分のために使わせてごめんなさい。
理解すればするほど、ますます彼女の態度には辟易する。
一つ一つコミュニケーションを取れることを、誰が迷惑と思うのだろうか。
勿論こういう形はイレギュラーとはいえ、事実、翠と会話をする機会は昔に比べれば減ってしまった。
それを解消する事ができたのだから、喜びこそすれ、謝罪される義理など毛頭ない。
「優しいですね、Pさんは」
彼女はにこりと笑って、返事をする。
寒空の中での赤らんだ表情は、とてもそれが本気とは思えなかった。
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