28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2013/12/05(木) 00:14:12.99 ID:My2ZDWWTo
「いえ、仕方ありませんから。それがわからない私じゃありませんよ、ふふ」
まあそう言うだろうな、とは思ったが。
くすりと笑うと、突然翠はポシェットから一つの袋を取り出した。
ベージュの色で、小さくくるまれているその袋はどこかで見たことがあるような気がする。
それがどこで見たものだったか。
答えを引き出す前に、彼女が先に踏み出した。
「それでは、次の仕事がんばって下さい」
いきなり取り出した袋を使って一体今から何をするのかと思いきや、手に持った袋を俺に預けてきたのだ。
「え、これは」
何度目かの困惑を迎える俺に、マフラーに埋もれている翠は微笑んだ。
「思い出は、共有しなければ消えてしまいますから。それでは失礼しますっ」
ぺこり、と腰を折ると、その意味を訊ねる暇もなく、翠はそのまま髪を揺らしながら立ち去っていってしまったのだった。
唖然として彼女の後ろ姿を見送ると、袋を持っていない方の手で思わず頭を掻いてしまう。
人の感情や思惑の機微が全部わかるほど全知全能を名乗るつもりは毛ほどにもないが、それでもわかりたいと思ってしまうことはある。
例えば今の彼女の言葉の意味など、だ。
結局行き先は同じなのだから先に行っても仕方ないだろうに、と俺も遅れてゆっくりと歩き出す。
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