過去ログ - 佐久間まゆ「いつもあの子がそばにいる」
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10:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:40:39.93 ID:pFDECU7w0
「やっぱり、私自身がちゃんと……やめてほしいって、小梅ちゃんに伝えなければいけないんですよね」
「それなんですけど、あの」

 歌鈴が気遣うように、遠慮がちに提案する。

「多分、小梅さんはまゆさんに危害を加えるつもりはないんじゃないか、と思うんですが……」
「ええ、それは私も分かっているつもりだけれど……」

 しかし、まゆはどうしても、心にこびりついた恐怖を消すことが出来ない。
 何をどう心に言い聞かせても、苦手なものは苦手だし、怖いものは怖いのだ。
 幽霊に好かれているなどと考えただけで、止めようもなく悪い想像ばかりが膨らむ。顔から血の気が引き、体に震えが走ってしまう。
 そして、それ以上に。

「……私、怖いんです」

 体の震えを押さえるように、まゆは己の肩を抱きしめる。

「幽霊のこと、詳しくは知りません。けれど、あの子というのが小梅ちゃんにとって大切な存在だということぐらいは分かります。そんな子が好きだと言った人間が、その子のことを怖がっている、嫌がっていると知ったら……小梅ちゃん、きっと傷つきます」

 それほど深い付き合いはしていなくとも、事務所に入った当初からずっと一緒に頑張ってきた仲間なのだ。
 小梅が、幽霊は怖くなくても、他人と接することを怖がっているのは知っている。
 そんな不器用で気弱な女の子が、プロデューサーの期待に応えようと、口下手なりに一生懸命他人に話しかけ、少しでも周囲と上手くやろうと頑張ってきた姿をずっと見てきたのだ。
 最近ではその努力の甲斐あって皆に受け入れられ、人前で話すことへの苦手意識も少しずつなくなってきているように見える。
 様々な事に対して積極的になってきているし、今回のことだって、あの子のためにと彼女なりに必死に頑張っているのはよく分かるのだ。
 それなのに、拒絶されてしまったら……はっきりそう言われなくても、そういう気配が伝わってしまったら。
 小梅は深く傷つき、また昔のように殻に籠ってしまうのではないか。
 彼女自身やプロデューサーの頑張りで順調に進んでいたものが、台無しになってしまうのではないか。

「私は……それが、何よりも怖いんです」

 まゆの告白を、二人は黙って聞いていた。
 歌鈴は何をどう言っていいのか分からないようで、縋るような目で礼子を見る。
 礼子はほとんど無表情のまま、ただ黙って話を聞いていた。
 だが、やがて淡々とした口調で切り出した。

「確かに、まゆちゃんが怖がっていたら、小梅ちゃんにはきっと分かってしまうでしょうね。あれで結構鋭い子だから」
「礼子さん……!」
「だったら、方法は一つでしょう」

 礼子は優しく微笑み、

「まゆちゃんの中にある恐怖を、なくしてしまえばいいのよ」
「え……?」

 思いもよらない助言に、まゆは困惑する。


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