過去ログ - 佐久間まゆ「いつもあの子がそばにいる」
1- 20
12:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:42:23.85 ID:pFDECU7w0
「……実際怖い目に遭っていて、元々怖い話の類が苦手なら、幽霊っていう記号やネガティブなイメージに引っ張られて思考が止まっちゃうのも分かるわ。仕方のないことよ」

 でもね、と礼子は言う。

「もしもそうなったら……恐怖や不安で思考が止まりそうになったら、一度深呼吸して、思い出してあげて。まゆちゃんがそこまで悩んで気遣って、どうしても守ってあげたかった白坂小梅ちゃんが、どんな女の子なのかを。そして、その子のお友達のことを」

 礼子はそう言い、励ますように微笑む。

「そしたらきっと大丈夫。きれいさっぱり消せるわ。あなたの中にある恐怖も不安も……ね?」
「……はい。きっと、出来ると思います」

 まゆは静かに答え、頭を下げた。

「ありがとうございます、礼子さん。礼子さんにお話聞いて頂いて、良かったです」
「私は面白半分で同席させてもらっただけよ。もう忘れてるかもしれないけど」
「そうでしたね」

 まゆは小さく微笑む。
 元々、歌鈴にだけ相談しようと思っていたら、たまたま通りがかった礼子が半ば無理矢理私にも聞かせて、と言ってきたのだった。
 礼子は年長者だけあって口が堅いし大丈夫だろう、と思ったから承諾したのだが、今はむしろ同席してくれて良かったと思える。

「歌鈴ちゃんも、ありがとうございました」
「あ、い、いえ、私なんて……全然お役に立てなくて、申し訳ないです」

 歌鈴は慌てて手を振ったあと、励ますように両手を握り、

「あの、頑張って下さいね。きっと大丈夫です、気持ち、伝わると思います」
「ええ、ありがとう。すみません、私……」
「一人で考えを整理したいのよね。私たちのことは気にしなくていいわ、もう少しここでお喋りしていくから」
「本当に、ありがとうございました。では、失礼します」

 まゆはもう一度頭を下げると、自分の分のコーヒー代を置いて席を立った。
 店を出ると辺りはもう夕暮れ時で、少しずつ夜の闇が近づいてきているのが感じられる。
 昨日まで、それは恐怖の時間へと近づいていくのと同義だった。今もまだ、恐怖は完全に消えたわけではない。
 しかし、心は驚くほどに軽い。

「……きっと、大丈夫」

 まゆは小さく頷き、迷いのない足取りで家路を歩き出した。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
30Res/46.78 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice