過去ログ - 佐久間まゆ「いつもあの子がそばにいる」
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8:aho ◆Ye3lmuJlrA[sage]
2013/12/16(月) 21:38:46.48 ID:pFDECU7w0
「あ、あの!」

 ちょっと強い口調で割って入り、

「いえ、別にそこまでしてほしいわけではなくて……ただ、遠ざけてくれるだけで……」
「あら、どうして? せっかく専門家がいらっしゃるんだから、もっと根本的に解決してもらいましょうよ。悪霊なんて消し飛ばしてもらえばいいじゃない。ね、歌鈴ちゃん?」
「だからそんなこと出来ませんってば!」
「どう?」

 歌鈴の抗議を無視しつつ、礼子はじっとまゆを見つめて問いかける。
 穏やかながらも全てを見透かすかのようなその視線に、まゆはとうとう観念した。

「……礼子さんは、もう全て察してらっしゃるんですね」
「ということは……?」
「はい。礼子さんの想像通りだと思います」
「そう。やっぱりね」
「あのー」

 一人話についてきていなかった歌鈴が、遠慮がちに手を挙げる。

「一体、どういうことなんですか?」
「さっきまでの会話を思い出してみなさいな。まるで幽霊に危害が及ばないように庇っているみたいだったでしょ?」
「あ……い、言われてみれば……!」
「それで、どうして庇うのかって考えると……まあ、普通に考えて見ず知らずの悪霊を庇う理由はないわよね。ということは?」
「……もしかして」

 ようやく歌鈴も察したらしく、困ったようにまゆを見て、

「小梅さん、ですか……?」
「はい……」

 まゆは頷き、隠していた事情を全て打ち明けることにした。
 二人に隠していたのは、あの車中での小梅との会話だけではない。実を言えば、心霊現象が始まってからも小梅からの接触はあったのだ。
 心霊現象の始まり、録った覚えのないプロデューサーの音声を聞いてしまった夜の翌日のこと。
 あれは一体何なのだろうと休憩時間中に悩んでいたら、不意に小梅が話しかけてきた。

「ま、まゆさん……昨日何か、い、良いこと、ありませんでしたか……?」

 まるで何かに強く期待しているかのように、左目をキラキラと輝かせて。
 この質問によってまゆの中で全てが繋がり、前日のことも小梅と彼女の言う「あの子」が関係しているのだということが察せられた。
 しかし、何分得体の知れない恐怖を味わってしまった直後のことだ。あれが良いことだとはどうしても思えなかったし、肯定してしまったらどうなってしまうのだろうという未知の恐怖もあった。

「ええと……どうだったかしら。特に、取り立てて良いことは……なかったと思うけれど……」

 目をそらして歯切れ悪くそう答えると、小梅は一瞬きょとんとしたあと、傍目に見てもがっかりした様子で目を伏せた。

「そ、そうですか……」
「ええ……」
「……ご、ごめんなさい、ちょっと、勘違いしたみたい……」

 小梅は申し訳なさそうにそう言うと、ぺこりと頭を下げて去っていった。
 しょんぼりと肩を落とした背中がいつも以上に小さく見えて、まゆの胸にもズキリとした痛みが走った。


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