10:aho ◆Ye3lmuJlrA[saga]
2013/12/22(日) 17:27:35.51 ID:y7rCDTmB0
「これ……見てもらえる?」
瞳子が携帯電話を開いて差しだしてきた。
なんだろうと思って見てみると、小さな女の子を抱いた女性が映っていた。
「これが、その友達……今はもう結婚して、子供もいるんですって……」
「幸せそうですね」
「ええ、旦那さんがとても優しい人で……上手くいってるんですって。それからね……」
瞳子が次の画像を見せてくれる。
今度は、大勢の少女たちに囲まれたスーツ姿の女性だった。眼鏡をかけた女性で背筋がピシッと伸びていて、いかにもデキる女という風情。
「これは、別の友達……今はプロデューサー業をしているんですって……」
「え、プロデューサーって……アイドルの?」
「そう……アイドルにはなれなかったけど、やっぱり何かの形で業界に関わっていたかったからって……」
「経験を活かしたってことですか」
「そうね……それから、これは」
瞳子は次々と、何人かの女性の画像を見せてくれた。
そこに映っている女性たちの様子は、様々だった。スナックらしき場所で煙草を吹かしている女性もいれば、トラックの前で堂々と仁王立ちしている女性もいる。幼稚園児に囲まれて優しげに微笑んでいる女性もいれば、どこかのビルの前に立つOLもいた。
敢えて共通点を挙げるとすれば、大体の年齢層と、あとはアイドルではない、ということぐらいだろうか。
「最初に言った友達が、連絡を取ってくれて……もう十年ぐらいは会っていなかったけど、皆、元気そうだったわ……」
瞳子は懐かしそうに言い、小さく息を吐く。
「全員と、連絡が取れたわけではないのだけれど……」
「それはやっぱり……上手くいってない人もいる、ってことですよね」
「そうね……だけど」
と、瞳子は少しだけ明るい声で言う。
「それは、今だけかもしれないわ……もしかしたら、今は大変でも、いつか……私のように、誰かと巡り合って……全てが、明るい方向に動き始めるかもしれない……そしてそのとき、今度は私が上手くいっていなくて……今まで以上に、どん底の状態にあるかもしれない……けれど、ね」
大切な宝物のように、そっと携帯電話を胸に抱く。
「私、もしもそうなっても……今度は、繋がりを断ってしまったりはしないわ……そんなこだわりに大した意味なんてないんだって、もう、分かったから……」
語り終えて、瞳子は小さく息を吐く。
黙って聞いていた櫂は、ふと、自分の体が軽くなっているのに気がついた。
変にもがくのをやめて、力を抜いたおかげだろうか。
光に揺らめく水面が、いつの間にか自分のすぐそばにある気がした。
16Res/35.77 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。