12:aho ◆Ye3lmuJlrA[saga]
2013/12/22(日) 17:28:49.96 ID:y7rCDTmB0
事務所のあるビルの外に出たら、夜空に輝く星の海のただ中に、金色の月がぷかりと浮かんでいるのが見えた。
軽く体を伸ばし、深く息を吸い込んでみる。家路を急ぐ人々で埋もれてごみごみしているはずの通りが、やけに広く感じた。
まるで、長い時間潜ったあとで、水上に顔を出したときのような心地。
「……さて、行きますかね」
一人呟き、歩き出す。
ゆったり流れる波間を泳いでいると、行き交う人たちの顔が次々と視界を通り過ぎていく。
今は自分と何の関わりもないように思える、たくさんの人々。
もしかしたら、あの疲れた顔のサラリーマンも、かつては水の中に生きていた同志だったかもしれない。
もしかしたら、あの能天気そうな少女たちも、いつかは自分と同じように輝く舞台を目指して歩き始めるかもしれない。
もしかしたら、あの真面目そうな少年とは、ここですれ違ったきり二度と会わないかもしれない。
大きなうねりと共に世界を巡る海のように、何もかもに境界がなかった。線引きをするのは人間だけで、本当は今というこの時間において全てが混ざり合い、溶け合い、曖昧になっている。
力を抜いて海を漂い、気楽に無意味にそんなことを考えながら、櫂は鼻歌混じりに歩いていく。
(さて、ひとまず家に帰って……水着、引っ張り出さなくちゃな。それから、夜も営業してるプールを探して、駄目元で皆も誘ってみて……)
とりとめもなく楽しいことを考えながら、櫂は遮るものもなく軽やかに流れていった。
<了>
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