過去ログ - 西島櫂「たまたま」
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6:aho ◆Ye3lmuJlrA[saga]
2013/12/22(日) 17:24:50.24 ID:y7rCDTmB0
「歌番組って……瞳子さん、昔もそういうの出たことあったん……っと、すみません!」
「ふふ……いいのよ。もう知っている人も少ないでしょうし」

 櫂の失言にも、瞳子はやはり気分を害した様子はない。
 むしろ何か、名案を思いついたような様子で手を合わせ、

「そうだわ……せっかくだから、一緒に見てくれる?」
「え、いいんですか?」
「ええ……昔の私の姿、今の仲間にも知っていてもらいたいの……櫂さんが嫌でなければ、だけど」
「い、嫌だなんてそんな! 是非お願いします!」

 櫂は勢い良く頭を下げる。
 あの服部瞳子の昔の映像なんて、まだテレビでも放映されていない非常に貴重なものだろう。
 その上、彼女自身から身の上話を聞かされた今となっては、余計に気になる。
 一体、昔の彼女はどんなアイドルだったのだろう。

「ありがとう……じゃあ、見ましょうか……」

 瞳子がリモコンを操作して映像を巻き戻す。
 最近のものよりは若干古めかしい雰囲気の歌番組映像が流れ出し、司会がはきはきとした声で言う。

『……それでは、最近CDデビューしたばかりのフレッシュなアイドルに登場して頂きましょう。服部瞳子さんです!』

 拍手と共に、一人の少女がステージに歩み出る。
 見るからに華奢で心細そうで、儚げな雰囲気の少女だった。
 多分、今の櫂よりも一回りほど年下だろうが、顔には現在の服部瞳子の面影がある。

「ふふ……なんだか恥ずかしいわね……」

 瞳子が少し照れくさそうに言う。

「昔の私、子供っぽくて……苦労知らずのお嬢ちゃんっていう感じでしょう……?」
「そ、そう、ですね」

 櫂はそう答えるしかなかったが、本音を言えば全く違う感想を抱いていた。
 苦労知らずどころか、相当な苦労を背負いこんでいそうな雰囲気だった。歳に似合わぬ悲壮感のようなものが全身から滲み出ているようで、テレビの画面越しに見ていてもこの子は大丈夫なんだろうか、と意味もなく不安になってくるほど。
 どこがフレッシュなんだろう、というのが正直な感想だ。

(下手すると今の瞳子さん以上に苦労してそうだ……)

 もちろん、口に出しては言えない感想である。
 どうやら当時の共演者たちも同じ感想を抱いたらしく、歌い終えた瞳子がゲスト席に戻って司会と話している間も、なんだか見てはいけない物を見てしまったような気まずそうな顔をしていた。
 司会者自身も地雷を踏まないように相当気を遣って話しているような感じで、下手すると罰ゲームに見えるほどだ。

『えー、それでは次の方……』

 トークの時間が終わって次の歌手を紹介し始めたら、共演者も司会者も露骨にほっとした空気になった。
 そんな中、少女の頃の瞳子は一人俯いて黙っている。なんだかそこだけ照明も暗くなっているように錯覚するほど。

「こういう仕事苦手だったの、昔……人と話すのも苦手で、このときもとても緊張していて……周りも年上の人たちばかりで、怖かったのよね……」

 多分周りの人たちはもっと怖かったと思いますよ、とは口が裂けても言えない。

(当時のプロデューサーはなんで生放送の歌番組に出したんだろう……?)

 一瞬疑問に思ったが、よく考えてみれば分かり切ったことだった。
 それだけ、この機会に賭けていたということだろう。
 瞳子が苦手とする場に押し出してでも、彼女にチャンスをつかませてやりたかった。

(でも、その結果は……)

 現在の彼女の経歴を思い出してみれば、いちいち考えるまでもない。


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