過去ログ - ありす・イン・シンデレラワールド
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10:チョッキを着たウサギ
2014/01/11(土) 09:05:45.97 ID:Gcj069EQ0
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またある日、スチール製空気振動遮断ドアを越えて防音設備の整ったレッスンスタジオにてジャージ姿のありすは壁を覆うパネルミラーに映る自分と向き合ってダンスの振り付けを一つ一つ確認しながら踊っていた。
まだアイドルとしてデビューをしていない少女に持ち歌もそれに合わせた振り付けもなく、ありすは自分が所属するマネキプロダクションに在籍する先輩アイドルのそれを真似ていた。
いつも持ち歩いているタブレットPCを鏡に立てかけて画面に映る眩しい笑顔を浮かべるアイドルの動きを再現する。それを巨大な鏡できちんと再現出来ているか確かめていく。そこに灯がやって来る。
「お疲れ様、ありすちゃん」
「橘で。苗字で呼んで下さい」
ありすがスポーツドリンクを持ってきた灯へと鋭い視線を飛ばした。一瞬場の空気が固まるのを二人は違う熱を感じることで共有する。ありすは自主的なダンスレッスンが中断してしまい灯は曖昧な笑顔を浮かべて、
「駄目?」
「駄目です」
短い言葉でのやり取り、灯は笑みを作りながら眉根を寄せる。ありすはこの笑顔に何度かほだされて名前で呼ぶことを容認してきたが今日の私は違う、という意気込みを持って毅然と答えたのだった。
「今はどんな曲を練習しているの?」
灯の分かりやすい話題変更にありすは敢えて乗る。近付いてくる背の高い男にタブレットPCを操作、動画を再生させて示す。凛とした少女の雰囲気とは似ても似つかぬファンシーな曲調のものだった。
「動き自体は少ないのですがそれだけにメリハリを効かせないと何をやっているのか分からなくなるが難しいんです」
ありすが胸元の高さでタブレットPCを持って灯は身長差を考えて腰を大きく曲げて画面を覗き込む。急に顔が近付いたことにありすだけが内心慌てふためく。灯は神妙な面持ちで砂糖菓子のような甘くとろける歌詞に耳を傾けて色鮮やかな衣装に身を包む少女を見つめる。端から見れば珍妙であるが本人たちは真剣そのものだった。
「よっしゃ! じゃあ、ちょっと一緒に踊ってみようか」
背広姿の男がその背広を脱いで腕まくり、ありすの横につく。
「え?」ありすの不安。
「え?」灯の疑問。
二人が顔を見合わせる。「どうしたの?」と灯に言われてありすは、
「一緒に踊るんですか?」
「うん」
しばしの沈黙、後のため息混じりの少女の発言。
「プロデューサーは、プロデューサーらしくないです」
「ははっ、この間ちひろさんにも言われたよ。でも今はトレーナーさん忙しそうだしさ。
俺がその代わりにならないことは分かってるけど見てるだけっていうのは違うと思うんだよね。もちろん一緒にステージには上がれないけど」
「当たり前です」
「うん。だから自分に出来ることは見送りたくない」
頑なな表情の少女に柔らかそうな表情の男。どこを切り取っても真逆になりそうな二人は視線を交える。灯が一方的に受け取っているような印象を受ける中でありすもまた相手から何かを感じ取っていた。だからだろう、頬を緩めるのは。
「プロデューサーは変わってますね」
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