過去ログ - ありす・イン・シンデレラワールド
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13:チョッキを着たウサギ
2014/01/11(土) 09:11:18.18 ID:Gcj069EQ0
「!? 体が勝手に……」
思わず声に出して灯は咄嗟に手で口を塞ぐ。しかし、ありすへと伸びている手はゆっくりとだが着実に彼女の頬へと近付いていく。初めて見た時から気になっていた部分であった。マシュマロと表現しようか天使のほっぺたと表現しようか、柔らかくも張りがあってしっとりと指先を包み込む感触に、
(すでに触れている!?)灯は自分の行動とありすの頬の感触に驚嘆して声が漏れそうになるのを瀬戸際で阻止した。
灯の中指がありすの頬に接触している、触れたところで止まっているのだ。しかし彼の手は更に伸びてしまう。指先一本で満足するはずがなく未知の領域に踏み込むように、新雪を踏みしめる無邪気な子供のように求めてしまう。
親指をあてがい頬に滑らせる。ただ滑らすだけでなく感触を確かめるようにほんの少しだけ押し込む形でスライドさせていくのだ。その終着点、親指のはらを名残惜しむようにありすの頬は弾んで離れる。
そこで慌てて灯は息を深く吐いた。自分が呼吸を忘れていたことに気付く。自分の知らない感覚が自身を支配していく。隣のデスクから椅子を引っ張ってきて灯はありすの頬と相対する。真剣な眼差しは夕日を受けてなのだろうか真っ赤な火が灯っていた。
人差し指の手背の部分で柔らかさを確かめるようにぷっくりとした僅かな膨らみを持ち上げる。不思議な感触だった、人の温もりが伝播して柔らかさは緩さでも脆さでもない。張りがあって形を保つそれに嫌味はなく絹の肌触りよりも良質、この時間が終わることなど考えられないほどにありすの頬を触る者は魅了されて意識は集中される。
だからだろうか、
「何をされてるんですか?」
などと声を掛けられて手の平全体でありすの頬を弾ませている灯はやっと相手が目を開いていることに気付けたのは。
「ひぅっ!?」
灯がその大きな体には似付かわしくない小さな悲鳴を上げて固まってしまう、手は未だにありすの頬につけたまま。
欲望と理性のせめぎ合い、激しい火花散らす鍔迫り合いは熱をエスカレートさせていく。誰も近付くことの出来ない触れれば断たれる切っ先と切っ先が闇夜へと溶けるように……とおかしな空想に囚われそうになる灯は慌てて手を引っ込めた。オレンジ色の光が差し込まれていても分かるほどに灯の顔は紅潮しており、そんな彼の様子にありすも気恥ずかしさを感じる。
「あの……」
先に声を発したのはありすだった。次の言葉が出てくる前に灯は合掌、頭を大振りして一声、
「ごめん! 本当にごめん! ごめんなさい! すみません! 申し訳ありません! あってはならないことでした! 弁解の余地もございません! 深く反省しております! 今後、このようなことがないように全力を尽くす所存であります!」灯が述べる謝罪のオンパレード。
そんな様子にありすは言葉を失ってしまう。灯は首が取れてしまうのではないかというほどに下げて硬直していた。微動だにしない彼にありすは少し考えて鼻でため息、椅子から腰を下ろして中腰で相手の表情が見える位置にまで移動すると灯の頬に触れた。
「私のほっぺた触ってたんですか?」
目を閉じて口を真一文字に結んでいた灯が表情筋を緩めてありすの顔を覗く。
「ごめん、ありすちゃんを見てたらついつい手が伸びてたんだ」
「もういいです。これで『おあいこ』で」
合わせていた手を離して灯が顔を上げるとありすは椅子に座り直した。
「実は友達にも時々ほっぺた触られるんです。ちょっと驚きましたけど、あれだけ謝られたら何も言えなくなっちゃいます」
「えと……夢中になるぐらい気持ちよかったです」
「なっ!」
ありすが自身の熱が上がってくるのを感じて身を乗り出そうとした刹那、ふっと辺りが暗くなった。日が完全に暮れたのだ、部屋の明かりが灯っていないために一気に暗くなる。それと同時に灯が照明スイッチの元へと行こうと立ち上がる。二人の行動が一致、速度が合致、目が暗闇に追い付かずにぶつかれば体の小さい方が自ずと弾かれる。
「ありすちゃん!」
男が必死で手を伸ばす。少女の背中に手が回って自分に引き寄せる。ほっと一息つけるのは少女の温もりが間近に感じられるからだった。暗闇の中、相手の顔は分からぬというのに体温と鼓動は二人の間で行き来する。
「……プ、プロデューサー」
自分でも分かるほど鼓動が耳障りに、それを聞かれたくない少女は声を上げる。男はすぐに手を離してしまう。名残惜しむように小さく「あっ」と声を漏らすがそれは相手に届かずに、
「大丈夫だよね? いきなり暗くなっちゃったね。すぐに明かりをつけるからここから動かないで」
暗闇に溶けていく大きな背中に少女は自分でも気付かずに手を伸ばしていた。繰り返し、しかし今回は届かなかった。空を切る少女の手はどこに行くでもなく闇に紛れて拳を作っては開いた。
不安が形を成している、ありすは直感で自分の行動を推し量る。そんなときカコンと何かと何かがぶつかる音と男の「いてっ」という声が重なる。不安が自然と拭われて少女は頬を緩ませていた。
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