過去ログ - モバP「見えた今に絶えぬ未来を」
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10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/22(火) 22:56:25.40 ID:dbLyof+Po


「Pさんはいるかしら?」
 黒く長い髪を大きく流しながら入り込んできた女性――黒川千秋はドアを開けるや否やそう尋ねる。
 私服こそ綺麗に着こなしているものの、その動きは大雑把なものだ。
 表情は決して明るいとはいえない。かといって暗いというわけでもなく、どこか呆れているような気持ちもあり、見た感じでも複雑な気持ちであるようだった。
 ドアから俺の席までは若干中に入らないと見えない構造になっているので、そう言いながら入ってきた千秋が俺を見つけるとずかずかと俺の座る椅子の前まで机越しにやってきた。
 尋ねはしたもののもはや儀礼的な言葉を退けると、彼女はじっと俺を見下ろす。
「居るけど……どうかしたか?」
「どうかしたか、じゃないわよ」
 よくよく彼女を見ると僅かながら息が上がっている。
 レッスンやライブ後以外ではあまり見せない千秋の姿にたじろぎつつも、彼女の言葉を頭に落としこんでみる。
「……すまん、何か忘れてるか?」
 しかし、彼女の問い詰めるような視線を解することはどうにもできなかった。
 昨日こそ千秋に会ったものの、今日は朝からまだ顔を合わせてはいない。
 つまり、俺の記憶では彼女らしからぬ態度を取る理由が理解できなかったのだ。

 そんな俺の様子を確認した千秋は少し息を吐いて、椅子に座る俺を見下ろしたまま言い放つ。
「昨日何があったのか、覚えてないのかしら?」
 どくん、と心臓が一段と跳ねた。

 やはりああいった大きな出来事の前後では、話題というものは必ず何度も煮沸するものだ。
 昼間、あれだけ考え悩んでしまったというのに再燃するのは仕方ないと諦めるべきか。

「……覚えてる。覚えてないはずがない」
 残念ながら千秋も総選挙の順位に名を刻むことは出来なかった。
 しかし彼女の行動は俺の予想を遥かに超えており、結果が公表されるや否や連絡がやってきて顔を合わせ、後悔や悲哀もなくひたすら納得の行くまで話し合いが始まったのだ。
 今日から一年前の間までに何をしてきたか、去年の目標はなんだったのか、どのように達成しようとしたのか、何が悪かったのか、全て尽く復習しては今後のレッスン方針を確認し合ったのである。

 それは単純に真面目だから、で済まされるような行動ではない。
 思うに、彼女は無駄が嫌いなのだ。
 失敗も成功も、全て自分の糧にして着実に前に進みたい。そういう必死さが彼女をより美しく仕立てていた。
 これも全て千秋という人物の率直さ、歩みの明瞭さによるものに違いない。





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