過去ログ - モバP「見えた今に絶えぬ未来を」
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9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/22(火) 22:53:32.12 ID:dbLyof+Po


 ――それにしても、今年も残念でしたね。
 カタカタと乾いた音を共に奏でて十数分経った頃、ふとちひろさんは呟いた。暖房で暖める必要のなくなった最近では息が白くなることも過去になりつつある。
 作業の手を止めた瞬間、何のことだ、と一瞬漏らしかけたものの、すんでのところで息を抑える。

 例えいきなりの事であっても、俺がその言葉の内容を理解しないはずがなかった。

「まあ、そうですね」
 事実、残念であったことには違いない。
 翠がデビューして数年が経過して、かつての立ち位置とは大きく違って一人のアイドルとして大きく羽ばたけるような……いや、羽ばたかなければならない時なのに、トップテンはおろかランクインの数字にすら刻まれないポジションに居る今は、彼女にとって非常に耐え難いと思うし、俺自身も物足りなさを感じている。

 それでも翠は過去から今まででずっと忍び、平静で居続けた。
 空気や雰囲気にとらわれず、翠本人が冷静であることを望んでいたのだ。
 彼女の深淵を覗く事が不可能である限り、彼女の思いや考えを認めるしか俺にはできないのである。
「意外と冷淡ですね」
「冷静と言って下さい」
 ちひろさんの静かな返事に、同じく静かにそう返す。

 ……しかしそう答える一方で、微かな違和感が脳内に芽生え始めていた。


 翠は、何故悔しがらないのだろうか。
 当然ながら弓道をやる時は一つ一つの形に集中し、喜ぶことも悲しむこともせず完璧な動きを見せることが良しとなるのだが、それが道場以外でも良しかと言うと快くは頷けない。

 水野翠は極めて冷静だ。例え俺が悲しめと、悔しがれと言ったとしても変わりはしないのだろう。
 そして彼女は強い。
 変わることがないまま、そのままであり続けるのかもしれない。
 周囲の応援を聞きながら、一人で頑張るのかもしれない。

 晴れない彼女の霧を覗こうとしても、そこに実像は浮かばない。
「対照的というか……どうだか」
 翠のことを考えていると、もう一人のアイドルが自然と想像される。
 同じユニットのメンバーでもこうも違うものなのだなとぼんやり考えていると、突然事務所のドアが少し荒っぽく開かれた。




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