76: ◆tcMEv3/XvI[saga]
2014/05/25(日) 13:29:05.93 ID:d+YVnMr1o
#2#
さて、話を戻そう。
休暇同然の死者運び。だが、暇過ぎていけない。
彼女はふと思いついたように、男に問い掛ける。
死神「ところで、もし差支えなけりゃだけど……お前さんの一生を聞かせちゃくれないかい?」
男「え、ええ。よろこんで……」
曰く。私は貧しい家の生まれでした、と。
「二歳の誕生日に父を亡くし、母も四歳のころ通り魔にあって他界です。
引き取られた先の親戚方には疎まれ、住み辛い日々を過ごしました。
――皆が大学に入って当然という時代、私は中学校を出ると働き始めるよりほかになかったのです。
まるで賽の河原に石を積み上げるように、レンガを床に敷き詰める仕事でした。
私は生来、覇気のない、女のような顔をしていましたから、よく先輩方の慰み者になりました。
女のいない職場でしたから、私は専ら、尻を出さなければ首にするぞ、と脅されていたのであります」
「もちろんのこと、土建の業界とて、男色の風潮のあるのは稀です。
先輩方が男色家だったという一点のみで、私は辱めを受けてきたのです。
私は排泄の穴を穢されるごとに、出世してやるぞと、屈辱をばねに独学で勉強をしていました。
……よって30に至るまで、私は女を知りませんでした」
死神「何を学んでいたんだい?」
男「歌と踊りです」
死神「へぇ。歌と踊り。昨今流行りのアイドルだか何だかというあれかい」
男「はい」
「私は自分の歌の才能を認識していました。
天下をとれると確信し、実際に歌の天下を取りました。
……皮肉にも、あの土建屋での屈辱がきっかけで、男と女、同時に媚びる術を見つけたのです。
性別を問わず人気を得るというのは難しいことで、私以外に誰も試みなかったことです」
死神「独自性により需要を確保したということかい?」
男「ええ。当時の私は、オンリーワンであることの誇りと、周囲に認められたという充実感で一杯でした」
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