過去ログ - トール「フィアンマ、か。……タイプの美人だ」
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74: ◆2/3UkhVg4u1D[saga]
2014/06/02(月) 22:33:27.86 ID:Av34Uu/40

廊下には、誰も居なかった。
廊下の端にある病室前のソファーには、二人しか居ない。
壁一枚隔てて、トールは未だ静かに眠り続けている。

「その後、シルビアとはどうなんだ」
「一応、……一応だけど、結婚も視野に入れてるよ。
 もっとも、彼女が断らなければ…だけど」
「断らないだろう。お前が思っているよりも、お前は良い男だよ」

くすくすとからかって、フィアンマは時計を見つめる。

「三日。……72時間か」
「………」
「この世界では三年間。…総計にして7301095時間以上かけて築き上げたものを喪失するための選択に与えられた時間が。
 …………たったの。………72時間か…」
「……彼に説明をするなら、」
「必要ない。……俺様との全てを忘れる位なら、トールは死や発狂を選ぶだろう。
 自分が自分でなくなるその最期の一秒まで、俺様を見て笑っている。
 そういう男なんだ、トールは。……そんな男にしてしまったんだ。俺様が」

時計の針が動き、規則正しく時間を過ぎ去らせていく。
患者服へ着替えた時に受け取ったトールのストールを握る。
それから、ヴェールにでもするかのように、顔を隠した。

「………俺様のこと、もう、名前で呼んでくれなくなるんだな」
「………、…」
「一緒に帰ろうと、愛していると、そう言ってくれなくなるのか」
「………」
「二人で不味い物を食べて暴言を吐くことも。
 二人で美味しい物を食べて笑顔で話をすることも、」
「………」
「抱きしめたり、……頭を撫でたり、…そんなことも、……して、くれなく、」

瞳から滲んだものが、ストールに染みて消える。

「泣いても慰めには来ない、……笑っても、理由を聞いてくれない」

忘れられるとは、そういうことだ。
かつて、確かに経験したことだった。
なのに、トールに忘れられるということが、たまらなく嫌だった。

「……個人としては勧められないが、…彼に、何もしないという手もある」
「世界を壊して回るぞ? 大きな戦争を起こして笑っている男になる。
 俺様の顔を見ても、俺様だとわからなくなるかもしれない。
 ……八方塞がりだ。そもそも、俺様の答えは決まっている。…決まっているんだよ、オッレルス」

彼は、自分に未来をくれた。
夢も、希望も、幸せも、何もかもを。
だったら、今度は自分がそれを返す番だ。
彼の幸せを、一番に考えるべきだ。

「二人きりで話をしてくるよ。……終わったら呼ぶ」



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