過去ログ - 阿良々木暦「になショウ」
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21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/05(木) 19:34:11.55 ID:DNBJrAglO

「うううう」

しゃがんで僕の足の間に顔を差し込み、腿あたりに両腕を巻きつけ持ち上げようと力を入れる。

ああ、火憐ちゃんに肩車してもらったのを思い出すなあ。
最悪だったなあれは。

「うううー!!」

が、まあ小学生低学年の力で成人男性の僕が持ち上がる訳もなく、市原の唸り声が響くばかりだった。

「ほら市原、無理するな」

「んんんん……てやあー!」

一挙に勝負を決めようと思ったのか、気合の叫びと共にぐっと力を入れる市原。

「――――――――」

瞬間、僕は目の前が真っ白になった。

比喩ではない。
それは刹那を永遠に、懊悩を輝きに、願いは絶望に変わる。

走馬灯のように過去の思い出がよぎる。
春休みの悪夢から始まった、僕と奇妙な隣人との物語。
正直言って、いい事の方が少なかったように思える。
証拠に、僕は人間を捨て、忍は吸血鬼を廃業するに至った。

けれど、悪いことばかりでもなかった。

羽川に出会えた。
キスショットに出会えた。
忍野に出会えた。
ひたぎに出会えた。
八九寺に出会えた。
神原に出会えた。
千石に出会えた。

忍と一緒に歩んで行けるようになった。

頭の中で、『white lies』が流れ続けている。

「ふっ……」

まあ、要するに、力を入れ過ぎて滑った市原の頭が僕のプロデュースポイントに直撃したのである。

だが僕は狼狽えない。
その程度で狼狽える僕じゃあない。

痛すぎて涙が出てきたが、顔に出したらおしまいだ。
産まれたてのトムソンガゼルのように足を震わせながら、市原の肩に手を起き諭すように正面から視線を交わす。

この時の僕の顔は、世界一優しくなれたと思う。

「市原……お前は世界一のアイドルだ」

「暦……?」

「もし僕が死んだら……命日だけでも着ぐるみを着て墓参りに……来て……」

意識が遠のく。

そう長くはなかったが、波乱万丈な人生だった。
その締め括りとして可愛い担当アイドルに終止符を打って貰えるのなら、プロデューサーとして本望じゃないか。

「暦――――っ!!」

市原の叫びを最期に、僕の物語は終焉を迎えたのだった。



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