過去ログ - P「律子の淹れるコーヒーはすげー苦い」
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2014/06/23(月) 09:42:25.31 ID:7b2UHG2Go
飲みたい、と思うとタイミングよく、
律子は俺のお気に入りのマグカップにコーヒーを淹れて持ってきてくれる。
時々、雪歩や小鳥さんが淹れてくれることもあるが、
大抵は律子が俺のカップを運んでくる。
雪歩の淹れてくれるコーヒーは少し薄くて、小鳥さんのはなぜか香りが弱い。
そして、律子の淹れるコーヒーはすげー苦い。
口を付けた瞬間、思わず顔をしかめるくらい苦い。
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2014/06/23(月) 09:43:35.34 ID:7b2UHG2Go
「律子、コーヒーすげー苦いんだけど」
「その方が目、覚めるでしょう」
淹れてくれるのはありがたいんだけど、もうちょっと美味く淹れてくれよ。
以下略
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2014/06/23(月) 09:44:42.01 ID:7b2UHG2Go
「律子、苦い」
「はい、気をつけます」
「それ前も言ってたろ」
以下略
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2014/06/23(月) 09:46:02.03 ID:7b2UHG2Go
律子がアイドルだった頃は候補生も今の半分くらいしかいなかったし、仕事の量に至っては半分もなかった。
精々三分の一から四分の一くらいだ。
逆に言えば、今はその頃の三、四倍の仕事があるってことだ。
以下略
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2014/06/23(月) 09:47:48.63 ID:7b2UHG2Go
一年近く前、良い形で律子はアイドルを引退した、と思う。
たった一年間の活動だったが、アイドルとプロデューサーとして二人三脚で頑張ったことは報われた。
ラストライブのあと、765プロの子会社を立ち上げて二人で一緒に経営したいと誘われた時には、
高揚感もあって二つ返事で了承した。
以下略
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2014/06/23(月) 09:50:24.83 ID:7b2UHG2Go
それから一年間、765プロは出来過ぎたくらいに仕事を増やしていった。
律子の淹れるコーヒーがすげー苦くなったのも、この一年の間だ。
忙しくなって、俺が日中眠そうにしているのを見かねて、
濃いコーヒーを淹れるようになったのかもしれない。
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2014/06/23(月) 09:51:41.12 ID:7b2UHG2Go
「なんだよ。あんまり苦いから、こうしないと胃に穴が空いちまうんだよ」
憎まれ口を叩いてやると、律子はふんと鼻を鳴らしてパソコンの画面に目を戻す。
こういうピリピリしたやりとりも、最近の習慣だ。思わず溜息が出る。
以下略
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2014/06/23(月) 09:52:34.88 ID:7b2UHG2Go
「溜息をつくと、幸せが逃げますよ」
「うるせーな。ほっとけ」
俺たちのやりとりを見て、小鳥さんがハラハラとしているのもいつものこと。
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2014/06/23(月) 09:53:32.22 ID:7b2UHG2Go
事務仕事が長引いて残業になっても、律子と一緒なら疲れなかった。
前は、前は……。
また溜息をついてしまう。
今は楽しくなかった。律子といると疲れる。コーヒーは美味しくない。
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2014/06/23(月) 09:55:15.42 ID:7b2UHG2Go
一人になりたかった。俺は断りなくデスクを立って、事務所を出た。
階段を上って、屋上に続くドアを開けると湿った空気とコンクリートの匂い。
後ろ手にドアを閉める。霧雨がしとしとと髪や肩に落ちてきた。
泣きたくなった。泣けば、涙は霧雨に溶けてこの星に落ちて行くような気がした。
以下略
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2014/06/23(月) 09:55:50.61 ID:7b2UHG2Go
「幸せが逃げるぞ」
律子はまた溜息をついた。もう、逃げる幸せも持ち合わせていないように。
「傘、差しても意味ないって。霧雨なんだし」
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2014/06/23(月) 09:56:44.66 ID:7b2UHG2Go
「いい機会なので、話そうと思うんですけど」
霧雨が積もる屋上で二人きり。本当にいい機会なのか、疑問だ。
「ここ、辞めようと思うんです」
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2014/06/23(月) 09:57:30.73 ID:7b2UHG2Go
嫌味も思いつかなかった。無言で踵を返して、屋上から逃げた。
律子は俺よりずっと優秀だ。頭の回転は速いし、俺の苦手な細かい仕事もそつなくこなす。
人を見る目だってある。いつだって冷静だけど情熱を欠かさない。
以下略
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2014/06/23(月) 09:58:26.15 ID:7b2UHG2Go
俺が自分のデスクに戻って、ぬるくなり始めたコーヒーを飲み干した頃に、律子は帰ってきた。
スーツは濡れて色を濃くしていた。律子の前髪から頬へと水滴がぴたりと落ちた。
傘を畳んだままでしばらく屋上にいたらしいことが分かった。
小鳥さんが慌ててタオルを持ってきて、律子に渡した。
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2014/06/23(月) 10:00:23.42 ID:7b2UHG2Go
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二、三日続いた霧雨が重さを増して、ばしゃばしゃと地面に跳ね返るようになった。
事務所の窓には水滴が伝って、冷たい宝石のように溶けて落ちた。
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2014/06/23(月) 10:01:15.25 ID:7b2UHG2Go
「なんです? じろじろと」
「……見てないよ」
「見てたじゃないですか、じろじろと」
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2014/06/23(月) 10:03:03.99 ID:7b2UHG2Go
「いつ頃にするつもりなんだ?」
「まだ、決めてません」
こち、こち、と時計の秒針が雨音を均整に切り分けていく。
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2014/06/23(月) 10:03:41.55 ID:7b2UHG2Go
「どこかに打診はしてみたか?」
「……そんなこと、いちいち訊かなくてもいいでしょう!」
そんなこと、は囁くように。いちいち、はハッキリと。訊かなくてもいいでしょう、と激しく。
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2014/06/23(月) 10:04:50.88 ID:7b2UHG2Go
倒れた椅子を起こして定位置に戻してから、律子は荷物をデスクから拾い上げた。
俺はその場を動かなかった。それとも動けなかったのか。
脳みそと目だけは冷え冷えと冴えていて、律子をじっと追っていた。
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2014/06/23(月) 10:07:13.60 ID:7b2UHG2Go
律子の出て行ったドアの方へ目をやる。傍に底に水の溜まった傘立てに濡れた傘が一本、突き刺さっていた。。
まだ、雨は止まないらしいと、俺は窓の外に耳を澄ませてみた。
この濡れた傘は、誰のか知らないが使わせてもらおう。
デスクを立って、その傘を手に取った。俺の手に良く馴染んだ。
以下略
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2014/06/23(月) 10:08:00.99 ID:7b2UHG2Go
慌てて事務所を出た。律子が出て行ってから、時間はそんなに経ってない。
濡れて滑りやすい階段に冷や汗をかきながら、俺は雨の中に走り出た。
すぐに雨が髪を濡らす。ばしゃばしゃと皮膚を打つ以外の雨は、
服に吸い込まれ重く、その下に冷たく手を伸ばした。
以下略
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