過去ログ - P「律子の淹れるコーヒーはすげー苦い」
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10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 09:55:15.42 ID:7b2UHG2Go
 一人になりたかった。俺は断りなくデスクを立って、事務所を出た。
階段を上って、屋上に続くドアを開けると湿った空気とコンクリートの匂い。

 後ろ手にドアを閉める。霧雨がしとしとと髪や肩に落ちてきた。
 泣きたくなった。泣けば、涙は霧雨に溶けてこの星に落ちて行くような気がした。
以下略



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 09:55:50.61 ID:7b2UHG2Go
「幸せが逃げるぞ」

 律子はまた溜息をついた。もう、逃げる幸せも持ち合わせていないように。

「傘、差しても意味ないって。霧雨なんだし」
以下略



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 09:56:44.66 ID:7b2UHG2Go
「いい機会なので、話そうと思うんですけど」

 霧雨が積もる屋上で二人きり。本当にいい機会なのか、疑問だ。

「ここ、辞めようと思うんです」
以下略



13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 09:57:30.73 ID:7b2UHG2Go
 嫌味も思いつかなかった。無言で踵を返して、屋上から逃げた。

 律子は俺よりずっと優秀だ。頭の回転は速いし、俺の苦手な細かい仕事もそつなくこなす。
人を見る目だってある。いつだって冷静だけど情熱を欠かさない。

以下略



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 09:58:26.15 ID:7b2UHG2Go
 俺が自分のデスクに戻って、ぬるくなり始めたコーヒーを飲み干した頃に、律子は帰ってきた。
スーツは濡れて色を濃くしていた。律子の前髪から頬へと水滴がぴたりと落ちた。
傘を畳んだままでしばらく屋上にいたらしいことが分かった。

 小鳥さんが慌ててタオルを持ってきて、律子に渡した。
以下略



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 10:00:23.42 ID:7b2UHG2Go
 ―――

 二、三日続いた霧雨が重さを増して、ばしゃばしゃと地面に跳ね返るようになった。
事務所の窓には水滴が伝って、冷たい宝石のように溶けて落ちた。

以下略



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 10:01:15.25 ID:7b2UHG2Go
「なんです? じろじろと」

「……見てないよ」

「見てたじゃないですか、じろじろと」
以下略



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 10:03:03.99 ID:7b2UHG2Go
「いつ頃にするつもりなんだ?」

「まだ、決めてません」

 こち、こち、と時計の秒針が雨音を均整に切り分けていく。
以下略



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 10:03:41.55 ID:7b2UHG2Go
「どこかに打診はしてみたか?」

「……そんなこと、いちいち訊かなくてもいいでしょう!」

 そんなこと、は囁くように。いちいち、はハッキリと。訊かなくてもいいでしょう、と激しく。
以下略



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 10:04:50.88 ID:7b2UHG2Go
 倒れた椅子を起こして定位置に戻してから、律子は荷物をデスクから拾い上げた。

 俺はその場を動かなかった。それとも動けなかったのか。
脳みそと目だけは冷え冷えと冴えていて、律子をじっと追っていた。

以下略



20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/23(月) 10:07:13.60 ID:7b2UHG2Go
 律子の出て行ったドアの方へ目をやる。傍に底に水の溜まった傘立てに濡れた傘が一本、突き刺さっていた。。
まだ、雨は止まないらしいと、俺は窓の外に耳を澄ませてみた。

 この濡れた傘は、誰のか知らないが使わせてもらおう。
デスクを立って、その傘を手に取った。俺の手に良く馴染んだ。
以下略



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