過去ログ - 阿良々木暦「かなこエレファント」
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13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/09(水) 18:43:28.70 ID:HorbTFBDO
「ふうん……まあ、そういうことにしておいてあげましょう」
僕の思考程度、全て見透かしていると言わんばかりに不敵な微笑を浮かべる。
「でもね暦、女というものはデートの最中に他の女の話はして欲しくないものよ」
それが例え仕事でもね、と付け足すひたぎさん。
まぁ、僕も久し振りの逢瀬で他の男の話をされても気持ち良くはならないだろう。
ひたぎの言うことは一理ある。
返事代わりにシューロールを口に入れた。
粉砂糖の甘味とシュー生地の口内での溶けるような具合が心地よい。
と、ひたぎが相変わらずの意地の悪い笑顔を浮かべてティラミスにフォークを刺す。
「私、こう見えても面倒くさい女なのよ」
「それはお前が階段から落ちて受け止めた時に思い知らされたよ」
世界中のどんな物語を紐解いたところで、あんなショッキングな恋の出会いはないだろう。
あれは登校中にパンを咥えて走る少女と交差点でぶつかるくらいの衝撃だった。
それにこう見えても、ということは自分ではどう思っているんだ?
「五キロなのに重い女だった、と言いたいのね。流石は暦、ジョークのセンスも一流だわ」
「ブラックにも程があるだろ!」
次の瞬間、自分の自虐ネタが可笑しいのか、笑顔を保ったままひたぎは凶行に及んだ。
「はい暦、あーん」
「な…………」
小振りなフォークに刺したティラミスを僕の口元まで持ってくる。
戦場ヶ原ひたぎという女は、決して人前でいちゃつくことをステータスと考えている類の人間ではない。
二人きりの時には戯れに気紛れにこういうことをする事も過去にあることはあったが、いくら機嫌が良かろうと人前でこのような惨劇を巻き起こすような女ではなかった筈だ。
まだこの場で乱入してきた強盗をフォーク一本で制圧した、と言われた方が信憑性がある。
もしかして僕は知らない間に池袋に脳を改造されてしまったのだろうか。
いや、彼女ならもっと面白可笑しい改造を施す筈だ。
例えばアホ毛からビームが出るとか、アホ毛がアイスラッガーみたいに飛び道具になるとか。
……何を企んでいる?
今までかつてないほどに僕のお脳が高速回転する。
考えろ、考えるんだ僕。
ひたぎが公衆の面前でこのような挑戦を僕に仕向けてきたからには、何かしら思惑があるに違いない。
まず思い付くのが、僕を貶めるためだ。
これが最も可能性が高いと思われる。
だがここは地元ではないし、慎重に全神経と吸血鬼の眼を駆使して周囲を探るが僕の知り合いはいない。
もう一つの可能性としては、本当に機嫌が良い場合だ。
その場合、僕は今、人前でデレるひたぎさんというマインドシーカーのエンディングに匹敵する貴重なものを見ていることになる。
「どうしたの、手が疲れちゃうじゃない」
こう見えても広辞苑より重いものは持ったことないのよ、と微妙なチョイスをしながら催促してくるひたぎ。
その顔は、少なくとも何かを企んでいるようには見えなかった。
ああ……僕は馬鹿だ。
なぜ僕との距離を詰めようと、衆目の真っ只中であるにも関わらずこうして無理をしている恋人の気遣いを疑ったりしたんだ。
ひたぎだって人間だ。
歴とした年頃の女性なのだ。
時にはこうして恋人との蜜月を過ごしたいと思うのも当然じゃないか。
ならばもう思い悩むことすらも失礼にあたる。
一刻も早く愛するひたぎの要望に応えるべきだ。
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