過去ログ - 怜「プロ」健夜「の」照「世界」
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8:[sage]
2014/08/02(土) 01:56:10.59 ID:n0O0dDR9o

 もちろん最初からそう思っていたわけではありません。
 高校三年の間に、絶対に追いつける、絶対に隣に並べる、……そう思っていたのに。
 もう既に私は三年になり、最後のインターハイも終わったというのに、追いつく事は出来なかったのです。

 咲さん、衣さん、そして最強のインターハイチャンプ宮永照。
 彼女達や、それに類する数名が特別だと言ってしまえばそれでおしまいかもしれません。
 けれど、何でもない振りをして、知らん顔で気にしていない振りをして、そのくせ、私は心の奥で、畏れ、怒り、……諦めに侵食されていたのかもしれません。

 その事をこの人、瑞原さんには見抜かれて居たのでしょう。
 だから、此処に連れて来られたのだと思います。

「うふふっ、何時もはファンやTVの前でにこやかに微笑んでいる選手達が、こんなにも必死に形相を隠しもせずに争いあう。別にランクが落ちたって死ぬわけじゃない、結局は自分の実力どおりの勝敗にしかならないのにそれでも必死に勝ちを奪おうとする」

 何故この人は、必死にあがく人達を、こんな目で見れるのか。

「とっても愛おしいわ、ねえそう思わない?」

 何故足掻きもがく人たちを、こんなにも温かく見守るように見れるのだろう?

 この人も『別』なのだろうか……。
 私は……一生、"ソレ"を眺める側で終わってしまうのだろうか?

 私は、この人達ほど勝つ事に執着した事があるのだろうか?

 此処に居る人達の殆どが強い。
 けれど、高校卒業後たった二年でA級雀士になった宮永照ほど『特別』な選手は殆ど居ないだろう。
 それでも諦めていない。
 貪欲に勝つ事を望み、歯を食い縛りながら身を切るように牌を搾り出している。

「ねえ、和ちゃん」

「……はい」

「A級はもっと」

 私には進むべき道がある。
 部活をする事は、一年の時のインターハイ準優勝で許してもらえた。
 しかしそれは、部活で成績を落とさない事が前提だ。
 その前提は、当然良い大学に進学する為のものだ。それは約束をするまでも無い私と父の共通認識だ。

「A級はもっと、面白いぞ☆」

 ああ、私は……私はもう、父を裏切ってでも先に進みたい。
 そう思ってしまっている。
 私のような凡人は、全てを掛けて、そして身を投げ出さなくてはいけない。

 そう、あの人の横に並び立つ為には……。

「よろしく、お願いします」
 私は、深々と瑞原さんに頭を下げた。
「うふふ、おっけ〜☆」

 そして、あの人に並び立つだけじゃなく、勝つ為に。



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