51: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:39:40.21 ID:UDVM4aPw0
----- ✂︎ -----
あれだけのことがあっても、わたしは警察に駆け込むという行動をとっていなかった。
52: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:40:59.85 ID:UDVM4aPw0
しかし、問題がある。
これまで、通り魔的に人を襲ってきた雨男だが、次の標的として、唯一の目撃者であるわたしが狙われる可能性がある、ということだ。
わたしが警察に情報提供をしなくても、僅かな縁を刈り取りに来るかもしれない。
沈黙を守ると決めた以上、誰を頼ることもできない。
53: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:42:27.76 ID:UDVM4aPw0
エスカレーターに乗り階を上がっていく。
やがて、文具コーナーがある階に、吸い寄せられるように降りた。
持ってても不自然でなくて、武器になる物はないだろうか。
いつの間にか、手に取っていたのは、鋏だった。
54: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:43:30.56 ID:UDVM4aPw0
ジェノサイダーと雨男の対決はごく短い時間だったが、どちらも常軌を逸した動きをしていた。
わたしなんかが、何か中途半端な武器を取ったところで、どうにかなるのか。
一体何をしているんだろう、わたしは。
雨が降るまでに、何かもっとまともな策を用意しなくては、まずい。
55: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:44:34.09 ID:UDVM4aPw0
ぶつかった、そう思った瞬間、わたしの目前に床があった。
何が何だか解らなかったが、とにかくわたしは転んで、這いつくばっていた。
右脛が異様に痛む。簡単に立てそうにない。
うつ伏せに倒れていたわたしは、なんとか上体だけ起こし、後ろを振り返った。
56: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:46:12.17 ID:UDVM4aPw0
嘘だ、あり得ない。屋内に現れるなんて。大体、今日は雨じゃないのに。
叫びが喉まで出かかったその時、先んじて無数の叫び声が聞こえ、辺りを見回す。何が起きている?そして、フロアが明るくなったことに気づく。元々暗かったわけではない。不自然に、一層明るくなっていた。
雨男の背後で、幾つもの商品棚が、煌々と燃え上がっていた。
57: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:47:14.18 ID:UDVM4aPw0
ミネラルウォーターのラベルが付いた、空の2リットルペットボトルが何本か床に転がっている。あれに灯油を入れて持ち込んだのか。
火の手は見る見るうちに、フロア中に広がっていく。
けたたましく、非常ベルが鳴り響き、スプリンクラーが散水をしている。スピーカーや非常口の誘導灯からアナウンスが流れるが、頭に入ってこない。誰もが非常口に殺到し、逃げて行く。待って、と叫ぶが、喧騒の中、誰も気づかない。
置いてけぼりだ。
58: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:48:17.65 ID:UDVM4aPw0
火と、スプリンクラーの散水の中、雨男と二人きり。
そこで、やっと気づく。わたしはスプリンクラーを見上げた。ほぼ真上にあったそれが、わたしの顔を濡らす。
「まさか、これが、雨?」
59: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:50:28.75 ID:UDVM4aPw0
もう、この階にわたし達以外の誰もいない。死の条件が整い過ぎていた。
必死に立とうとするが、痛みで立ち上がることができない。雨男に蹴られたのだと今になって解るが、それにしても尋常な痛みじゃない。爪先に金属の仕込まれた、安全靴でも履いているに違いない。
仮に立ち上がることができても、雨男が見逃してはくれないだろう。ターゲットは間違いなく、わたしだ。
60: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:51:43.45 ID:UDVM4aPw0
息を吸っても吸っても、酸素が足りない気がする。もうそれ程まで、火が回っているのか。
いや、火のせいではない。むしろあれだけ燃え広がった火は、少しずつ弱まりつつあった。
身体の底から、重く、暗い何かが広がっていき、それが肺を満たしている。追い出そうと息を吸えば吸う程、それに溺れていく。沈んでいく。
絶望だ。
61: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:53:50.99 ID:UDVM4aPw0
雨男が、こちらに一歩踏み出した。
今日、ここに来なければ、こんなことにはならなかったかもしれない。さっさと警察に情報提供しておけば、こんなことにはならなかったかもしれない。あの日、買い物に行かなければ。
後悔が次々と、絶望の海から浮かんでは沈んでいく。
雨男が、また一歩近づいてきた。あと一歩でナイフが届く距離だ。
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