62: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:55:25.02 ID:UDVM4aPw0
雨男が、踏み込んだ。
わたしの方を向いたままの切っ先が、ぐんと近づいてくる。それが突き出されて、わたしが終わる。
63: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:56:13.20 ID:UDVM4aPw0
雨男の右肩が動き出した、その瞬間、雨男の身体が後ろに吹き飛んだ。
雨男はわたしの後ろの、燃えていない商品棚の影から飛び出した人物に、蹴り飛ばされた。
「ほら、言ったじゃん。止んでないってさあ」
64: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:58:41.02 ID:UDVM4aPw0
「油断し過ぎだっつうの、こまこま。アタシなら千回は刺せるわ。ハサミの筵になっちゃうよん」彼女は、けらけらと笑う。
「な、なんですか、ハサミの筵って」わたしは、緊張と弛緩の混乱で、引きつった笑みを返した。
65: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:59:33.72 ID:UDVM4aPw0
「余計なもんが裁断できたおかげで、さっぱりしたわ。まるで生まれ変わったみたいにさあ、世界がすっきりはっきりしてますわ。後はあれを切り刻むだけってわけよ」鋏が雨男を指した。
スプリンクラーの雨の下、殺人者が相対する。
66: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:00:15.68 ID:UDVM4aPw0
「アンタ、人を殺さないアタシがいてもいいって言ったわよね?」わたしに背を向け雨男と向き合ったまま、ジェノサイダーが尋ねてきた。「人を殺さないジェノサイダー翔がいても、って。覚えてんでしょうね?」
「は、はい」
67: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:01:20.22 ID:UDVM4aPw0
唐突に、対決の火蓋が落ちる。
一瞬で間合いを詰めたジェノサイダーが、真っ直ぐに右手の鋏を突き出した。雨男はその軌道から身を逸らし、そこ目掛けてナイフを振った。完璧な迎撃に思われた。
しかし、ジェノサイダーの手は右半身ごと引っ込み、代わりに左手がボディブローの如く雨男の腹へ打ち込まれた。
68: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:02:34.64 ID:UDVM4aPw0
雨男が後ろへ飛びすさった。左手で腹を抑え、小刻みに震えている。それ程までに強烈な一打だったのか、と思った時、ジェノサイダーを見て気づく。
ジェノサイダーは両手に鋏を持っていた。しかも、左手の鋏は血に濡れている。
殴ったのではなく、刺していたのだ。
どうにかナイフを構える雨男の様子を鼻で笑い、ジェノサイダーは左の鋏に付いた血を、長い舌で舐めた。
69: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:03:29.74 ID:UDVM4aPw0
突き出した雨男の腕が、血を噴いた。
ジェノサイダーは完全に、雨男の刃を捉えていた。身を逸らし、迎撃する様には余裕すら感じられた。
ジェノサイダーの右腕と、雨男の右腕がすれ違い、口を開けていたジェノサイダーの鋏が雨男の腕を裂いていた。
70: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:06:07.36 ID:UDVM4aPw0
一切の間を置かず、左の鋏が雨男の脇腹に噛み付いた。雨男は低く呻き、後退する。
更に右手の鋏が雨男の左肩を噛んだ。雨男が後退する。左の鋏が右肩を刺す。後退する。右の鋏が斬りつける。後退。左の鋏が裂く。後退。鋏が啄ばむ。鋏が抉る。
ジェノサイダーは絶叫にも近い哄笑を上げた。口が裂けそうな程、腹が千切れそうな程、喉が壊れそうな程、笑いながら、雨男を刻む。
71: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 23:07:27.06 ID:UDVM4aPw0
だらりと下がっていた雨男の右手が、矢で射抜かれたように、白塗りの壁に張り付いた。ジェノサイダーが鋏を突き立て、壁に縫い付けたのだ。ジェノサイダーは、自らの太腿に巻かれたホルダーから次々に新しい鋏を引き抜きながら、雨男の右二の腕、左二の腕、左手も同様に、串刺しに固定していく。内側のコンクリートが遠いのか、雨男の肉を通ってあっさりと、鋏が壁に突き立てられていく。
雨男が身体中に無数の鋏を生やし、磔が完成した。まるで新たなジェノサイダーへの供物のようだった。
信じられないことに、血達磨にされた上で磔にされてもなお、雨男は息をしていた。しかし、その命も最早、時間に奪われるか、ジェノサイダーに奪われるかのどちらかの未来しかない。
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