4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/09/12(金) 09:26:11.32 ID:YEnzxIxj0
さて、と男は開かれた鉄箱の隅でうずくまる少女に英語で話しかける。
『何言ってるかわかるか?』
少女は色の違う両眼に涙を浮かばせ、首を横に振る。
(おっと……中国人?朝鮮?東アジアあたりの人間だったか……)
そう思い、今度は中国語で語りかけてみた。
《何言ってるかわかるか?》
少女はまたも首を横に振る。
韓国語でも反応は同じだった。
(なんだなんだ……?たしか親をなくしたんだったな。そのショックで喋れなくなったか?それとも単に無意味な反抗をしてるだけか?)
やけくそ気味になった男は、頭をがしがしと掻きむしりながら日本語で話しかけた。
「何言ってるかわかるか?」
そして、少女の反応は全くもって予想外の物だった。
頷いた。
――――揺れが酷いな。客に対する礼儀ってもんを知らないのか?
がたがたと揺れるワゴンに心中不平をこぼしながら、少女を買った男は帰路?についていた。
ワゴンの窓からは果てしない荒野が広がっているのが見える。見てるだけで目が乾きそうだ。
少女は男の隣のシートに無言で座っていた。
よく見てみれば身につけているズボンと長袖は薄汚れていて所々にシミが浮いていたので、男は運転手にこう言った。
『この辺に服屋は無いのか?こんなんじゃ日本に連れて帰るとき妙な視線で見られちまう』
『おいおいモンキー。お前立場わかってんのか?人を買ったんだぞ?おおっぴらに持ち帰れるとでも?』
『持ち帰れるんだなそれが。偽造パスポートはもう用意してある。あくまで親子みたいに振舞えば……まあ、なんとかなるだろうさ。空港も変えるしな』
『……お前何もんなんだ?日本ってのは法治国家だって聞いてるがなんだってお前みたいなのがうろついてる』
『さあな、国会議事堂に電話でもしてみたらどうだ……近くの服屋まででいい、ついでにその服屋の近くにあるホテルの住所を書いてくれ』
『注文の多い客だな』
『注文の多い料理店よりゃマシさ』
『……?』
運転手は男の言った事の意味が全くわからず、怪訝そうに眇められた瞳が運転席のミラーに移り込む。
宮澤賢治も異国に出ればただの人か、と男は内心で苦笑し、黙り込んだ運転手に変わって隣の少女に声をかけた。
「日本語でいいんだったな」
「……」
「なんか喋ったらどうなんだ。それともやっぱりほかの言語か?中国韓国英語。これ以外の言語だと手も足も出ないんだが。ボディーアクションで会話でもするか?」
「……日本語で、いいです」
「やっと喋ったか。それにしても日本人が売られてるなんて珍しいな。運が良かった」
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