17: ◆EhtsT9zeko[saga]
2014/10/06(月) 23:33:49.36 ID:l+3sZe1fo
サクサクと、枯葉を踏みしめる足が鳴る。
そういえば、トロールさんがこのあたりには熊も狼もいる、って言ってたっけ。
狼は夜に狩りをするって聞いたことがあるな。昼間は熊、か。
村では、熊よけのために、森に入るときはいつも歌を歌っていたのを思い出す。
私と妖精さんだけじゃ、もし熊に出会ったら大変だもんね。
私も歌を唄って、熊を遠ざけないと。
「山がー色づきー♪風薫るー♪雪解けがーせせらぐぅー♪いのちが息吹く春ぅー♪」
歌いだしたら、それに気づいた妖精さんはちょっとびっくりしたみたいだったけど、すぐに笑顔になって空中で私の歌に合わせて踊るみたいにして飛び回りだした。
この歌は、村の大人たちがよく歌っている季節の歌で、雪解けの春から始まって、
雨季と夏と、夏の終わるころと、実りの秋と、枯れはじめの秋と、霜が降りる冬に、雪が積もる冬があって、それからまた最初の雪解けの春に戻る。
全部で7番まである。私はまだ夏までしか覚えてなくて、秋よりあとはまだぼんやりしか知らないんだけどね。
でも、歌を唄っていると楽しい気分になってきた。そういえば、父さんと母さんが死んじゃってから、こんなに良い気分になれた時間はなかったな。
思い出すと寂しくって悲しくって泣きたくなるけど…うん、今はそれよりも、歌を唄いながら薪を探さなくっちゃ。
そう思って私は妖精さんに連れられて歩いた。すこし行くと、次第に森が開けてきた。
サラサラと川の流れる音が聞こえてくる。
川か…薪があっての湿ってそう…そう思っていた私の顔の前に急に妖精さんが飛んできた。どうしたの?
そう聞く前に妖精さんは私の口にへばりついてきた。目の本当にすぐ前で、慌てた顔をしてしーっと人差し指を立てている。
し、静かに、ってこと?なに?熊?く、熊だったら大きい声出して追い払わないといけないんだよ…?!
私は急にそうされたものだから、びっくりしたのと怖くなってしまったのとで、体がまたカチコチになってしまう。
そんな私の服の裾を、妖精さんがそっと引っ張って、川の方へと誘導していく。
妖精さんが合図してきたので、私はその場にしゃがみ込んで這いつくばりながら近くの茂みの陰まで行って、そーっと川の方をのぞいてみた。
そこには、何かがいた。
ボロボロの生地に、ボサボサした髪に、傷だらけの体をした、誰か…
あ、あれ、ひ、人?た、倒れてるけど…大丈夫かな…?
私は心配になって、恐る恐る立ち上がりその倒れている人をもっと良く観察する。
腰には皮のベルトをしていて、そこには剣がぶら下がっている。
へ、兵隊さん?で、でも、それにしては鎧なんかは着てない…ど、どうしちゃったんだろう…?
「あ、あのっ…大丈夫、ですか?」
私はビクビクっとしながらそう声を上げた。
も、もし、大けがでもしてるんだったら大変だし…体のあちこちに擦り傷みたいのはたくさんあるから、きっとなにかあったに違いないんだ。
私が声をかけても、その人はピクリとも動かなかった。し、死んじゃってるのかな…?
妖精さんが私の肩口に引っ付いて、私とおんなじようにビクビクっとしているのがわかる。
「あ、あのぅ〜…」
私は、もう一度恐る恐る声をかけた。
返事は、ない…と思った次の瞬間、その人の体がビクンと動き出した。
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