過去ログ - 幼女とトロール
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935: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/12/14(月) 00:42:49.58 ID:jGgpJsLto

 「マント!あと、一応剣も!」

お姉さんの言葉に、零号ちゃんが阿吽の呼吸で装具入れからマントを取り出すとお姉さんに手渡し、

さらに皮のベルトに通された剣を引っ張り出すと、お姉さんの腰に腕を回して素早く取り付ける。

 マントを羽織り、腰の剣の位置を整えたお姉さんは、そのまま素早く立ち上がった。

「零号、幼女、姉ちゃん、姫を頼む。十六号と十七号を残していくから、なにかあったらここへ呼びつけろ」

お姉さんはそう言い残すと、マントを翻らせて部屋を飛び出して行った。

 零号ちゃんも、私も、もちろん勇者様も、バタン、と閉まるドアを、なんだか茫然と見つめていた。

火事、か…まさかこんな時にまた騒ぎがあるなんてな…

私は、部屋を出て行ったお姉さんのことが急に心配になり始めてしまった。

あんな状態で、現場で倒れたりしないといいんだけど…

 「火事って…大丈夫かな?」

そんな私とは違った心配をしていたらしい零号ちゃんが、不安げな表情でそう口にする。

確かに、それもそれで心配だ…少なくとも二の壁の外で燃えているんなら、内側への延焼はよほどの大火事にならない限りは大丈夫だとは思うけど、

だからと言って、二の壁の外が重要でないわけではない。

東門のあたりということは、旅客が寝泊まりする宿や、交易の窓口をしている建物だってある。

もちろん、そういう人達を相手にして食事を出したり小物を売ったりしているお店だってある。

たくさんの人が住んでるんだ…心配しない方が無理に決まっている。

でも、それを口にしたところで、状況が変わるわけでもない。

私は、胸にこみ上げた不安を押し込めて、お姉さんが食べ残したパンを零号ちゃんの口にねじ込んだ。

「んぐっ!?」

「今は、夕ご飯を食べておこう…今は、私達に出来ることはきっとない。

 でも、火事が収まれば親衛隊の人達やお姉さん達が疲れて帰ってくる。

 収まらなかったら、街の人達を非難誘導するのに人手がいる…

 私達は、そのときに備えて、食べるもの食べて体を休めておかないと」

私は、口の中のパンを一生懸命に飲み込もうとモゴモゴ言っている零号ちゃんにそう言った。

やがてパンを飲み込んだ零号ちゃんは、なぜだか少し苦しそうに息をついてから

「…うん、そうだね…」

と、唇をキュッと食いしばって答えてくれる。

私は、そんな零号ちゃんの肩を思わず抱きしめていた。

 苦しい気持ちも、不安な気持ちも、私にだってある。

でも、それに流されてはいけない。

また、あの時のように大切なことを見誤ってしまいかねない。

だから、私は私ができる確実なことだけを選ばなきゃいけないんだ。

 それはとても苦しいことだけど…こうして、同じ気持ちでいてくれる仲間がいる。

それだけで私は、せり上がってくる焦燥感や、それを抑え込む苦しさとだって戦えた。
 


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